
日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第13弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。
都市・建築のカーボンニュートラルへのデジタルの役割
都市・建築は運用時に多くのエネルギーを消費しており、これを減らすことが気候変動の緩和策として求められています。断熱などのハードの対策も重要ですが、本研究ではデジタル技術を活用したエネルギーシステムについて焦点をあてます。
建築では再生可能エネルギーやヒートポンプの普及に伴い、従来よりも複雑な制御について考慮する必要があります。例えば、再エネが普及すると需給バランスの調整のために、建物側で需要をずらす制御や、環境温度に近いソース(帯水層やデータセンターで利用した空調用排温水など)を利用したヒートポンプによる空調などが採用されることがあります 。再エネの発電量や帯水層の水温は年間を通して変化するため、このような複雑なシステムを計画・設計・評価するには、デジタル技術を活用したサイバー空間でのシミュレーション(デジタルツイン)が有効です。近年、物理現象の高度なシミュレーションに用いられる言語のひとつにModelicaがあります。
建築では再生可能エネルギーやヒートポンプの普及に伴い、従来よりも複雑な制御について考慮する必要があります。例えば、再エネが普及すると需給バランスの調整のために、建物側で需要をずらす制御や、環境温度に近いソース(帯水層やデータセンターで利用した空調用排温水など)を利用したヒートポンプによる空調などが採用されることがあります 。再エネの発電量や帯水層の水温は年間を通して変化するため、このような複雑なシステムを計画・設計・評価するには、デジタル技術を活用したサイバー空間でのシミュレーション(デジタルツイン)が有効です。近年、物理現象の高度なシミュレーションに用いられる言語のひとつにModelicaがあります。
![図1 都市の建築を中心としたエネルギーシステムのモデリングの概念図 (出典:Matthias et al. 2023 [1])](/ideas/jc8m9v0000001un1-img/jc8m9v0000001uuy.jpg)
Modelicaとは
Modelicaとは、物理システムをモデル化するために開発されたオブジェクト指向のオープンソース言語です。1997 年 に最初のバージョンが公開され、現在は非営利国際組織のModelica協会によって更新されています。Modelicaは機械系・電気系・熱系・流体系・制御系など数式で表現できる物理現象をモデル化できるライブラリ(Modelica Standard Library)が無料公開されており、それをもとに様々な分野で有償・無償含め独自のライブラリが開発され活用されています。Modelicaを利用するためには、統合開発環境(IDE)が必要ですが、これもOpen Modelicaという無償のソフトを利用することができます。
Modelicaが最もよく活用されている分野のひとつは自動車開発です。Modelicaを用いることで自動車開発において、設計したコンポーネントが、必要な機能・性能を発揮できるか実物を試作する前にサイバー空間(≒PCの中)で検証できます。さらに、ある機能・性能を最大化するような設計パラメーターの値の探索も、実際に実物を作ることなく検討することができます。
Modelicaが最もよく活用されている分野のひとつは自動車開発です。Modelicaを用いることで自動車開発において、設計したコンポーネントが、必要な機能・性能を発揮できるか実物を試作する前にサイバー空間(≒PCの中)で検証できます。さらに、ある機能・性能を最大化するような設計パラメーターの値の探索も、実際に実物を作ることなく検討することができます。

建築設備のためのライブラリ
建築の設備に特化したModelicaのライブラリの代表的なものにアメリカのローレンス・バークレー国立研究所のDr. Michael Wetterが中心になり更新を行っている「Modelica Building Library(MBL)」があります。これは、2008年に初めて公開され、現在ver.11.0.0が最新版として無償で公開されています。
MBLには、空調用熱源(吸収式冷温水発生機・ヒートポンプ・チラー)や搬送系(ポンプ・ファン)、蓄熱、空調機、コージェネレーションシステム、直膨コイルなど様々な、建築設備のコンポーネントがありシミュレーションを実行することができます。以下の図はデータセンター用の熱源設備であるフリークーリングチラーをモデル化したもので、チラーの定格COP(効率)である3に対して、フリークーリング時(省エネ手法のひとつ)にはCOPが10~14まであがっていることが確認できます。
MBLには、空調用熱源(吸収式冷温水発生機・ヒートポンプ・チラー)や搬送系(ポンプ・ファン)、蓄熱、空調機、コージェネレーションシステム、直膨コイルなど様々な、建築設備のコンポーネントがありシミュレーションを実行することができます。以下の図はデータセンター用の熱源設備であるフリークーリングチラーをモデル化したもので、チラーの定格COP(効率)である3に対して、フリークーリング時(省エネ手法のひとつ)にはCOPが10~14まであがっていることが確認できます。


他の設備シミュレーションと比較して、Modelicaは特に制御周りの動的な挙動の再現を得意としています2)。これらの制御は、PI コントローラ等を記述する微分方程式、機器がいつ操作モードを切り替えるかを記述する離散方程式(またそのヒステリシス)、および流体の挙動計算する代数方程式などを用いてModelica上で記述できるため、実際の建築物で使用される物理的に現実的なフィードバック制御シーケンスを正しくシミュレーションできます。
万能に見えるModelicaですが、実際に使用してみて、弱点?もわかってきました。まず、言語体系を理解・習得することに時間がかかる、バージョンアップなどで過去の実行ファイルですぐにエラーがでる、デバックも難しい等、とにかく使いこなすのに時間がかかるということです。日建設計総合研究所ではModelicaに詳しい専門家の協力を得ながら、まず日建設計本社ビル(吸収式+ブラインチラー+氷蓄熱)の再現に取り組んでいます。
Modelicaが次世代の建築設備シミュレーションのスタンダードになるかはまだわかりませんが、面白そうなものはまず触ってみようの精神で、取り組みを進めています。
万能に見えるModelicaですが、実際に使用してみて、弱点?もわかってきました。まず、言語体系を理解・習得することに時間がかかる、バージョンアップなどで過去の実行ファイルですぐにエラーがでる、デバックも難しい等、とにかく使いこなすのに時間がかかるということです。日建設計総合研究所ではModelicaに詳しい専門家の協力を得ながら、まず日建設計本社ビル(吸収式+ブラインチラー+氷蓄熱)の再現に取り組んでいます。
Modelicaが次世代の建築設備シミュレーションのスタンダードになるかはまだわかりませんが、面白そうなものはまず触ってみようの精神で、取り組みを進めています。
出典
- Matthias Sulzer, Michael Wetter, Robin Mutschler, Alberto Sangiovanni-Vincentelli, Platform-based design for energy systems, Applied Energy, Volume 352, 2023, 121955, https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2023.121955
- Wetter, M., Benne, K., Tummescheit, H., & Winther, C. (2023). Spawn: coupling Modelica Buildings Library and EnergyPlus to enable new energy system and control applications. Journal of Building Performance Simulation, 17(2), 274–292. https://doi.org/10.1080/19401493.2023.2266414