
近年、企業や組織の評価軸として欠かせない要素となったESG(環境、社会、ガバナンス)ですが、その中でもS(社会)の要素は環境やガバナンスと並び、私たちの生活に直接的な影響を与える重要なものとして注目されています。建築業界でも、建物が提供する物理的な空間が働く人々や住む人々の生活や健康に大きな影響を与えることから、「社会的な側面」を考慮することがますます重要になると考えます。具体的には、建物の設計や運用の仕方の工夫で人々の健康や福祉、社会的なつながりを促進することができる可能性があります。例えば、オフィスに目を向けると「快適性」や「効率性」の向上を重視されることが多いですが、最近は「人々の健康」や「ウェルビーイング」も意識した空間づくりを実践している建物が増えています。
ここで、「どのような工夫をすれば人々に優しい空間を設計できるのか?」、「どのようにすれば社員の優しい建物を選択できるのか?」というニーズに対応し、体系的な検討をサポートするツールが建築環境認証制度です。WELL Building StandardやFitwel等の健康に着目した建築環境認証制度は、単に省エネや環境負荷の低減だけでなく、建物がどれだけ人々に優しい空間を提供しているかを測る指標として注目されています。また、労働環境や住環境における「健康的な空間」の提供が、企業の生産性や住民の幸福度を向上させるというエビデンスが増えてきているので、その重要性は今後ますます高まるものと考えられます。
本記事では具体的なエビデンスを紹介しながら、建物がどのようにして人々の健康や福祉に貢献できるのか、またその社会的価値が企業やコミュニティにどのような利益をもたらすのかを考察していきます。
Fitwelを開発したCenter for Active Design(CfAD)1)は、健康促進の目標と経済的価値の創出の関係を6つのターゲット目標(図)として整理しました。
ここで、「どのような工夫をすれば人々に優しい空間を設計できるのか?」、「どのようにすれば社員の優しい建物を選択できるのか?」というニーズに対応し、体系的な検討をサポートするツールが建築環境認証制度です。WELL Building StandardやFitwel等の健康に着目した建築環境認証制度は、単に省エネや環境負荷の低減だけでなく、建物がどれだけ人々に優しい空間を提供しているかを測る指標として注目されています。また、労働環境や住環境における「健康的な空間」の提供が、企業の生産性や住民の幸福度を向上させるというエビデンスが増えてきているので、その重要性は今後ますます高まるものと考えられます。
本記事では具体的なエビデンスを紹介しながら、建物がどのようにして人々の健康や福祉に貢献できるのか、またその社会的価値が企業やコミュニティにどのような利益をもたらすのかを考察していきます。
Fitwelを開発したCenter for Active Design(CfAD)1)は、健康促進の目標と経済的価値の創出の関係を6つのターゲット目標(図)として整理しました。

例えばアクティブリビングに着目して、具体例を見てみましょう。気候変動の主な原因である二酸化炭素の排出量のうち、日本では運輸部門からの排出が18.5%2)を占めています。仮にある建物が公共交通機関の近くに立地していれば、その建物の利用者は自家用車ではなく公共交通を使用してアクセスしやすくなり、車の利用による二酸化炭素の排出を抑えることができます。これは広い目で見ると大気汚染の軽減につながることから、喘息などの呼吸器疾患を減少させるとともに、公共交通機関と徒歩の組み合わせによって健康増進の鍵となる身体活動の増加にも寄与します。公共交通機関に近い建物の資産価値が高いことは周知の事実ですが、その価値をひも解くと、単に利便性が高いだけでなく様々な便益があることがわかります。前述したように、こうした便益を体系的に整理し、建物の価値を評価できるようにしたツールが、建築環境認証なのです。
日建設計総合研究所では「環境認証」サイトにて、WELL Building StandardやFitwel等の建築環境認証についてわかりやすく紹介 するとともに、建築環境認証の取得支援コンサルティングを行っております。ぜひお問い合わせください。
また、日建グループでは建物の環境価値をわかりやすく伝える「環境価値BOOK」 を発行しています。建築環境と健康や知的生産性の関係性など、本コラムで紹介した以外のエビデンスを多数紹介していますので、併せてご覧ください。
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出典
- Fitwel, Building Health Issue #2, Expanding the Evidence, https://www.fitwel.org/building-health-issue-2-expanding-the-evidence
- 国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html
図中の参考文献
- Alfonzo, M. (2015). Making the Economic Case for More Walkability. Urban Land Institute. Retrieved from https://urbanland.uli.org/public/houston-economic-case-walkability.
- Donovan, G. H., Landry, S., & Winter, C. (2019). Urban trees, house price, and redevelopment pressure in Tampa, Florida. Urban Forestry & Urban Greening, 38, 330-336.3.
- Cooper, R. A., Wang, C., & Singh, N. (2016). Evaluation of a model community-wide bed bug management program in affordable housing. Pest Manag Sci, 72(1), 45-56.4.
- National Institute of Buildings Sciences. (2019). Mitigation Saves: Private-Sector Retrofit Saves $4 for each $1 Invested. Retrieved from https://www.nibs.org/files/pdfs/ms_v3_retrofit_total.pdf5.
- Hunt, K. G. (2013). The cost of losing a tenant Journal of Property Management, 78(4), 54-57.6.
- Urban Land Institute (2021). The case for social equity in real estate. Retrieved from https://ulidigitalmarketing.blob.core.windows.net/ulidcnc/sites/47/2021/09/20210824_Case-for-Social-Equity-in-Real-Estate_WEB.pdf