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ESG戦略 エネルギーマネジメント カーボンニュートラル・GX 官民連携 都市計画・まちづくり

地球温暖化をくいとめる、建築や都市の工夫。未来のために日建設計総合研究所ができること・していること

この20年間でぐっと進んだといわれる地球温暖化。建築や都市をつくっていくうえでも、気候変動に対する視点は欠かせません。日建設計では、2021年に「気候非常事態宣言」を表明し、グループ全体で民間企業の立場から、経済活動と脱炭素社会実現の両立を模索し社会に働きかけていく取り組みを進めています。 当記事では、日本の気候変動研究の第一人者である東京大学未来ビジョン研究センター 副センター長・教授の江守 正多さんをお招きし、日建設計総合研究所(NSRI) 執行役員の河野匡志、小川貴裕、大久保岳史とともに座談会を実施。温暖化の現状や日本の立ち位置を見つめながら、NSRIとして何ができるのかを話し合いました。

平均気温が1.5℃高まると、もう戻れない?

 ——まずは、気候変動の現状を教えてください。
 
 
 
 江守:地球の平均気温は、18世紀の産業革命前に比べると1.3℃ほど上がっています。原因は、人間活動によって二酸化炭素やメタンガスなどの放出量が増え、大気の温室効果が強まっていること。数年に一度のペースで起きるエルニーニョ現象もみられた昨年は、平均1.5℃も上昇しています。
江守正多さん
 そこで国際社会は、国連気候変動枠組条約締約国会議にて「パリ協定」を採択し、今世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにして、気温上昇を+1.5℃に食い止めようという目標を掲げました。ただし、目標達成は非常に厳しいところ。あと10年ほどのうちに、平均気温が+1.5℃まで到達してしまう可能性は否めません。
 
——平均気温が+1.5℃になると、地球には何が起こるのでしょうか?
 
江守:記録的な熱波や海面上昇、森林火災などのリスクがぐっと高まります。温暖化には、ある一定の温度を超えるとその先はもう後戻りできなくなる「ティッピングポイント」を持つ現象があり、+1.5℃でそのいくつかを超えてしまう可能性が高いです。
 
——気候変動を防ぐ世界の取り組みにおいて、日本はどのような立ち位置にありますか?
 
江守:2020年までの温暖化対策を定めた「京都議定書」のころはリーダーの一角でしたが、残念ながら最近はあまり存在感がありません。過去のインフラに引きずられ、石炭の火力発電が減らせていなかったり、電気自動車を推進しきれていなかったりすることが批判を浴びているんです。一方で、この間に存在感を増し、とくに技術面を牽引しているのは中国。エネルギー需要が伸びているのでCO2の排出量はまだ減ってきていませんが、新しい技術の大量な導入を進めています。
 
河野:ティッピングポイントを超えなくて済むように、性能のいい建物やまちをつくっていくことが我々の使命だと、改めて気が引き締まりますね。

省エネの建築や都市を生み出す、さまざまな工夫

 ——ここからは、NSRIができる気候変動対策を考えてみたいです。最近の提案では、どのような工夫をしていますか?
河野匡志
 河野:2020年10月に国がカーボンニュートラル宣言を行って以来、建築業界においても「低炭素」から「脱炭素」への大きな転換点を迎えました。最近では、建物の性能を高めてできるだけエネルギーを使わない建物「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」が増えてきています。日建設計では、文部科学省のスーパーエコスクール実証事業の一環で、岐阜県にある「瑞浪北中学校」の新築(2019年竣工)において、建物のエネルギー消費量が実質ゼロであるZEBをいち早く実現しています。NSRIは、日建設計を支援する立場で、省エネ技術や創エネ導入などのエネルギーに係る検討を担いましたが、以来、これまで「脱炭素」に係るさまざまな業務を通じて、ノウハウやデータなどを蓄積しています。
 
小川:都市計画の分野では国交省の掲げる「まちづくりGX」に基づき、気候変動・生物多様性・ウェルビーイングという3つの観点を踏まえた取り組みが進められています。2024年に先行オープンした『グラングリーン大阪』は典型的な好例ですね。駅のすぐ側は経済性を重視して商業施設になりがちなのですが、あえて中心に大きな緑のオープンスペースをつくり、QOLの高い空間をプロデュースしています。緑の環境価値はこれまで見えづらいという課題がありましたが、日建設計では「みどりのものさし」というツールを開発し効果の見える化を行っています。NSRIもその中で可視化の支援をしています。
 
大久保:確かに、脱炭素の取り組みに向けて、建築物単体での議論ではなく、都市やまちづくりの広域的な視点からの取り組みに関する議論は盛んになってきていますね。特に交通・物流分野でのエネルギー消費は一定割合を占めており、環境負荷の少ない移動手段の環境整備や、中長期的な視点で“移動しやすいまち”をつくり、脱炭素を促す……というような都市・まちづくりの観点からの脱炭素化の取り組みが進められています。NSRIでも、まちづくりの観点からの脱炭素化の取り組み事例として、「港区低炭素まちづくり計画」などの策定支援を行っています。
また、近年は、公共団体と民間企業が協働して官民連携によりまちづくりが行われる例が増えています。NSRIでは、官民の役割分担などの事業スキームや事業条件を検討することも多いですが、本来の事業性に影響を及ぼすことのないように、公共側視点での最低限確保すべき水準に加え、脱炭素化の取り組みに関する民間提案の誘導の仕掛けについて、官民双方の視点を如何にバランスさせて設定するかが悩みどころです。
大久保岳史
それからもうひとつ大切なのは、今後、新たに整備する段階での取り組みを考えるだけではなく、現状の既存建物や都市が抱えている課題をきちんと把握し、今後の気候変動リスクに対してどのように対策・対応を考えていくべきかも重要です。昨今の災害の激甚化や頻発化が進む中で、NSRIが得意とするまちづくりと都市情報分析の知見を活用し、全国に土地や建物の資産を保有する企業の方に対して、保有資産のハザードリスクの評価とその対応方策の提案も行っています。
 
——NSRIが気候変動に対する取り組みを進めていくにあたり、課題はありますか?
 
河野:まず、これまでと同じ考え方だけでは、既存建物を含む建物やまちのCO2排出量をゼロにすることは難しいです。目標値と実態として減らせるであろう数字(実績値)とのギャップが大きくなっていると思います。
小川貴裕
 小川:一番の課題は、必要な資金の調達が不透明なことや、責任を取るための組織や人といったさまざまなリソースが不足していることではないでしょうか。目指すシナリオは描けるが、いざ実現しようとしても壁が多くて、なかなか思ったとおりにいかない。
 
大久保:そうですね。とくに国内では、事業の収益性を優先して気候変動対策が後回しになってしまうケースも少なくありません。
 
江守:動きが出づらい場合は、コストベネフィットを強調するといいかもしれませんね。この先、地球温暖化が進めば、建物や都市に被害が及ぶのは時間の問題です。事後対応のコストがかかるのと、被害が出ないよう事前に手を打つコストをかけるのと、どちらがよいか。もちろん、気候変動で失われるものをすべて金銭に換算するのは難しいとも思います。でも、将来の被害を最小化するために新しい仕組みをつくる、という気持ちで臨めたらいいですよね。
 
河野:実際、そうした空気も生まれてきているとは思います。CO2排出量をゼロにしようとすると、どうしても初期投資の回収期間は延びてしまうのですが、ESG等の観点から、ZEBの達成に向けて投資しようと考えるお客さまも増えてきていると思います。
 
江守:そんなふうに「お金がかかってもやるんだ」という価値観ドリブンの動きが、今後も増えていくのを願うばかりです。
ヨーロッパや中国では、CO2の排出量に価格的インセンティブをつける「カーボン・プライシング」も進められてきました。日本でも今後は段階的な強化を見込んでいるため、コスト負担についての見通しはつきやすくなってくるのではないでしょうか。

今後のカギは「価値のかけあわせ」「次世代の教育」

 ——今後、環境を守るためにNSRIとして取り組みたいことはありますか?
 
河野:これまで、建築環境やエネルギー分野の検討は、建物用途や面積がある程度はっきりしてから本格化されていましたが、企画・構想段階からその取り組み方針を設定したり、周辺のエリアで取り組める工夫なども加えていくことで、さらに面白い提案が可能になると思っています。すでに、こうしたアプローチで取り組みを進めているプロジェクトもあります。
 小川:個人的に注目しているのは、『グラングリーン大阪』の象徴でもある“緑”ですね。バイオフィリア(生命や自然に対する愛着を表す概念)の視点でまちづくりをコンサルティングすることで、空間の魅力を引き上げつつ、CO2吸収にも貢献ができる。日本全国に10万ヶ所以上ある都市公園でこうした工夫を取り入れられれば、大きなのびしろがあると思います。
 
河野:これまではCO2を減らす視点の取り組みが多かったけれど、都市分野とも連携し公園などの大きな単位で、そのようなCO2の吸収源を増やし、プラスマイナスゼロに近づけていく取り組みは、まさに「カーボンニュートラル」の考え方にもなりますね。
 
大久保:それから、既存建物や既成市街地では、様々な制約がある中で大胆な対策を行うことが限られる可能性があります。その点では、今後のインフラ老朽化や公共施設の再編などに合わせて、都市やエリアの再構築が必要となるケースが増えていくものと考えられ、そのような際には脱炭素化に向けて実施すべき事項を大胆に組み合わせていくことが必須になると考えています。日建グループが主として取り組む設計・開発段階のみならず、運用段階での取り組みも見据えたパッケージ型の提案を、さらに意識していきたいです。
 
江守:インフラなどは一度作ると何十年単位で固定化されてしまうから、刷新のタイミングに合わせた提案は本当に大事ですね。建築業界がそこをマストだと考えていていただけるのは、とても助かります。
 
河野:子どもたちへの環境教育も重要なアクションのひとつです。先ほど事例として挙げた瑞浪北中学校では、教室単位で消費エネルギー量が見える「エコモニター」を設置しています。窓の開け方や照明のオンオフを工夫すると、使うエネルギーが目に見えて減るわけです。このように、建物そのものを教材に使った環境教育は、建物をつくる設計の仕事と親和性が高いと思いますね。
 江守:直接的なカーボン施策だけでなく、ほかの多様な価値を絡めたアクションはとても面白いですね。気候変動が抑えられるかどうかは世界規模の話ですが、日本において必要な取り組みを着実に進めていただいていることがよくわかりました。
 
河野:当社は、これまでの知見も活かしながら解決策を提供する会社でもあるので、今後はプロダクトがつくれるさまざまな会社とも協業しながら、新しい価値を生み出していけたらと思います。スタートアップなども含め、よい企業とマッチングしたいですね。
 
小川:日建設計本社には、多様な人や組織によるコラボレーションを加速させ、社会環境課題を解くための共創コミュニティ「PYNT」があります。江守先生からのお話にたくさんの学びがあったように、我々はPYNTという共創の場を通じて、今後もさまざまな立場の専門家と交流しながら、気候変動対策の新しいヒントを探し続けていきたいです。

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