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都市計画・まちづくり

成長しつづけるガイドラインで、まだ見ぬステークホルダーをも巻き込む新たなまちづくり

ステークホルダーを能動的に巻き込むまちづくりガイドラインの作成

株式会社IHIが造船工場として拓いていった歴史をもつ砂町エリアの再開発プロジェクトにおいて、NSRIはそのコンセプトの検討やまちづくりガイドラインの策定を支援しています。当記事では、長期に及ぶ当プロジェクトのなかでも、2023年度に実施したガイドライン作成についてプロジェクトメンバーのうち、IHIの畔高陽介さんと関瞳さん、そして日建設計総合研究所の藤田朗と久保夏樹で振り返った座談会をお届けします。

長年のパートナーシップで臨む、砂町の再開発

——IHI社にとって、砂町は歴史あるエリアと聞きました。当プロジェクトにはどのような思いがありましたか?

関瞳(以下、関): IHIの本拠地である豊洲の開発と同等、あるいはそれを超えるようなプロジェクトだと認識しています。砂町エリアは元来埋め立てから始まり、軍需工場や造船工場を経て2014年に工場を閉鎖しました。地域の方々にとっては長年縁遠い存在だったかもしれませんが、再開発によって地域に親しまれ未来につながる場所にしていきたいと思っています。

畔高陽介(以下、畔高): エリア北部の住宅地からは大きな道路も挟むので少し隔離された感じもありますしね。実は私は実家が近く、幼い頃よく砂町で遊んでいましたが南側は工場が多くトラックも多くて危ないので子どもだけで行くなとよく親に言われていました。そういった場所を再開発によって地域に開かれた場所にしていく転換点に立ち会えていて、個人的にも楽しみながら取り組んでいます。
——NSRIとIHI社は砂町エリアで長年協業を重ねていますが、当プロジェクトではどんなことを期待して取り組まれたのですか?

藤田朗(以下、藤田): 流れをさらうと、2010年から土地利用転換の検討をNSRIと日建設計で支援していました。当初は住宅や商業施設を配置するなどさまざまな絵を描きましたが、行政協議を経て産業のまちづくりを進めることに。その後日建設計による開発計画やインフラ整備の検討などを経て、2022年にNSRIが開発コンセプトを再整理し、2023年度からはまちづくりガイドラインの作成に取り組んでいます。

関: 日建設計さんには豊洲の開発でも計画の策定業務や行政との協議、ガイドライン作りのサポートなど長く携わっていただいており、お互いに勝手がわかるといいますか、すでに信頼関係があるため今回もご協力を依頼しました。IHIは元々製造業のため都市開発のノウハウが乏しいものの、熱意とビジョンはありまして(笑)。それらを現実にどう落とし込むかの知恵をいただいたり、日建グループでの「PYNT」のような場づくりのナレッジも活かして砂町エリアでの共創の場づくりをサポートいただきたいと思っていました。

藤田: IHIさんはご自身でも「うちは変な会社だ」とよくおっしゃいますけど(笑)、普通なら行政主導でやるような規模の豊洲ほどの開発を民間でやってしまうなど、いい意味で特異ですよね。今回も、通常は民間が作ることの少ないガイドラインをIHIさんが作るというお話ですが、民間企業でありながら公共の仕事に取り組むという、開発に公的な意義があることを強く意識される姿勢に寄り添いたいと思っていました。
株式会社日建設計総合研究所 主任研究員 藤田 朗
株式会社日建設計総合研究所 主任研究員 藤田 朗

ガイドラインの指針ができるまで

——ガイドライン作成にあたって、どのような論点がありましたか?

藤田: 「都心から最も近い工業専用地域」という稀有な立地をどう生かすかが大きな検討課題でした。そこで挙がったのが、工業専用地域でありながらもう少し人が入り込むような用途——たとえば工場見学や環境教育といったことや、地区内にあるIHIさんの私有水面を活用したぎわいづくりをして回遊性をもたせられないかといった視点です。検討を重ね、「産業まちづくりと水面活用のセットで取り組むまちづくり」という新しいまちづくりのモデルを提案しました。 

関: 一般的に、まちづくりガイドラインは景観をはじめとするハード面の整備ルール等が多く見受けられるのですが、今回手がけるガイドラインは、そうした整備だけではなく「自分ごと化」「共創」「成長」というキーワードを大事に運用面も視野にいれています。というのも、豊洲の開発を通じて、人や地域がつながることで生まれる価値をとても感じていて。だから、砂町のガイドラインは作って終わりにしたりトップダウンなムードをもたせることなく、実際にまちのプレイヤーとなる事業者さんと一緒にまちの将来を考え、ガイドラインを更新していけるようなものにしたいと考えています。 
株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ 関 瞳さん
株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ 関 瞳さん
 畔高: 開発って期間の長いものなので、関わる人によって時間軸が結構ばらつくんです。だから、最初からガイドラインをかちっと固めるのではなく、進出事業者さんや周りの環境の変化、開発の状況に応じて柔軟にガイドラインを育てていき、まちとともに発展させていくようなものにしました。そんなスタンスを理解して形にしてくださったNSRIさんに感謝しています。自主管理公園や水辺の活用など、なかなか先行事例がないなか国内外を幅広く調べていただいて、成果物である資料集は笑ってしまうほどのすごい分厚さ。自分たちだけでは知り得なかった事例を学べました。

——可変性を持たせたとのことですが、たしかにガイドラインには「義務」「提案」「推奨」など、使い手にとって関わりしろのある言葉遣いが見受けられ、工夫を感じました。

関: その表現は「自分ごと化を促したい」と話した際にNSRIさんからご提案いただいたものです。安全性に関わることなどルール化しないといけないものもあれば、IHIのアイデアが全て正しいとも限らないので、進出事業者さんの視点も反映できる余白をおきました。実際に活かしてもらえたらうれしいですね。

外部視点と対話で築いたプロジェクトの軸

——具体的に、プロジェクトを進めるにあたってインパクトのあったことを教えてください

畔高: 私有地内に半ば公的なエリアを置く「民地パブリックスペース」をどこに配置するかというアイデアは、東京都立大学の山村崇先生へのヒアリングでブラッシュアップされました。ヒアリングで「開発エリアの真ん中を突っ切るような通路があるとコミュニケーションが活性化する」と伺ったのですが、砂町の特殊性は水辺と防災がキーでもあるので、水辺への連結性を高めることでできることが増えるという観点から当初の想定よりももっと海側に移動させたんです。これが陸地を水辺へ拡張させるという視点のブレイクスルーになりました。そもそも民地パブリックスペースといった概念自体、自社だけで考えていたら出てこなかったはずで、もっと既視感のあるテーマを出していた気がします。NSRIさんや有識者の方々など、外部視点を適切にいただく価値を感じました。 
株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ アシスタントマネージャー 畔高陽介さん
株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ アシスタントマネージャー 畔高陽介さん
 久保夏樹(以下、久保): 「エコディストリクト(エコ=環境保全、ディストリクト=地区)」というアメリカのポートランドで生まれたフレームワークを取り入れたことも大きな要素かと思います。これは、地区単位のスケールで、省エネ、緑・水の保全、交通、エネルギー供給の仕組みをつくり、さまざまな主体を巻き込みながら持続可能な開発を加速するための戦略です。IHIさんの永続的にまちに関わりたいという思い、地域を巻き込んだ防災まちづくりへの思いを伺ったときにこのフレームワークとの親和性を感じ提案しました。
今回作成したガイドラインでは個別のテーマごとに進捗度を測る指標を付けています。ビジョンや達成したい内容は一般的なガイドラインにも記載されますが、街の開発・維持・更新の過程で目標の進捗度や見直しをステークホルダーのみんなで管理できるような指標を設定しています。エコディストリクトを参考にIHIさんと議論を重ねて作っており、当プロジェクトの熱量の表れの一つかと思います。

関: エコディストリクトの「プロセスを重視する」「地域関係者を巻き込む」という考えと、「成長し続けるガイドラインにしたい」というわれわれの思いが見事に一致しましたね。ロードマップを引いてみんなで定期的にエリアの方針を確認し合い、次のアクションを提案・後押ししながら取り組んでいくやり方は、当社の社風にも合うと上司からも好評でした。

——日本ではまだ前例がないようですが、ボトルネックにはなりませんでしたか?

畔高: われわれの部門のトップが、前例がないことはかえっておもしろがり、興味を持つタイプでして(笑)

久保: エコディストリクトはまちづくりのプロセスを重視したフレームワークですが、適用する意義やメリットをいち早く理解し賛同をしてくださったのはIHIさんが初めてです。それは豊洲のまちづくりの経験もあるでしょうし、IHIさんの社風やまちづくりへの姿勢が一致したのかもしれません。
株式会社日建設計総合研究所 研究員 久保夏樹
株式会社日建設計総合研究所 研究員 久保夏樹

実装に向けて、さらなるリアリティを

 ——みなさんご自身はこのガイドラインをどう評価されますか? 

藤田: 砂町の周辺は水害リスクの高いエリアですが、まち周辺を巻き込みながら日常の楽しみと防災をつなげる「デュアルユースなランドスケープ」というコンセプトや、私有地内にパブリックスペースを設けるなど、なかなか珍しい取り組みが盛り込まれていて熱量のあるおもしろいものができると感じています。これから具体化に向けて進めていきたいですね。

久保: ガイドラインは今後関わる進出事業者さんとのコミュニケーションに使われるものです。今後もさまざまなステークホルダーを巻き込みながらブラッシュアップされ、砂町ならではの視点が詰まったものになることがとても楽しみです。

関: NSRIさんとの長い対話を経てようやく「自分ごと化」「共創」「成長」というテーマを導き出し明文化できたことは本当に大きな成果でした。一方で、進出事業者さんも関与できるあそびをもたせたとはいえ現状はIHIのビジョンの存在感が強いので、今後実際により多くの方に受け入れてもらえるようにNSRIさんと丁寧にブラッシュアップしていきたいです。

畔高: 今後社外の関係者が増えていくと、柔軟に対応しながらも、条件やルール設定をする必要も適宜でてくると思います。ガイドラインを活用し、砂町の都心に近い工業専用地域というポテンシャルを活かしながら、地域と協力しNSRIさんのお知恵も拝借しながら一つずつ砂町再開発を形にしていきたいと思います。
  • プロジェクト期間
    • 2023年4月〜2025年3月
  • プロジェクトメンバー
    • 岡田拓己さん(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ 主幹)
    • 畔高陽介さん(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ アシスタントマネジャー)
    • 松川友貴さん(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ アシスタントマネジャー)
    • 関 瞳さん(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ)
    • 金子奈央さん(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ)
    • 藤田 朗(株式会社日建設計総合研究所 主任研究員)
    • 金 希津(株式会社日建設計総合研究所 研究員)
    • 久保夏樹(株式会社日建設計総合研究所 研究員)



写真=井上 昌明(BOUILLON INC.)
構成・文=原口さとみ

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