
地球温暖化対策への社会的関心は一層高まりを見せており、国内外及び公・民を問わず、様々な分野においてカーボンニュートラルに向けての検討と対策が進められています。日建設計総合研究所(NSRI)では、大学キャンパスにおいても、カーボンニュートラルに向けたコンサルティングを展開しています。それらに多く携わっている坂井主任研究員と范研究員に話を聞きました。
大学キャンパスにおけるカーボンニュートラルに向けた取組みの現状
坂井: 近年、“カーボンニュートラル”という言葉をよく耳にしたり口にするようになりましたが、それまでは省エネや省CO2といった表現をよく使っていました。日本では2020年に内閣総理大臣が“2050年までにカーボンニュートラルを目指す”と宣言をしたことにより、各方面で取組みが加速しています。大学では、2021年7月に経済産業省・環境省・文部科学省等による「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」が立ち上がりました。2023年4月現在、200に及ぶ大学が参加しており、キャンパスや地域のカーボンニュートラル化などに取り組んでいます。また、大学独自で目標を設定するなど、大学キャンパスにおけるカーボンニュートラル化に向けた動きが近年盛んになってきています。
大平: 大学も自らの取組みを始めているのですね。大学キャンパスならではの特徴というのは、どのようなものでしょうか。大学のキャンパスというと、多様な用途の多数の建物により構成されているイメージがありますが。
坂井: そうですね、大学キャンパスは一言でいえば“小さなまち”のような施設です。文系、理工系、事務系、病院、食堂や運動施設など様々な用途の建物群で構成されています。その中でも特に理工系施設では、特殊機器を利用する研究施設や実験室を多数有しているなど、他の用途にはない特徴が挙げられます。一つ目は、独自仕様の研究所と研究のための特殊な設備・機器が多く、それに伴いエネルギー消費量も多いことです。さらに、特殊な設備・機器からは、発熱も多いので、空調使用も多くなる傾向にあります。二つ目は、実験や研究が昼夜に渡ることも多く、特にオフィスと比べて夜間のエネルギー消費が大きいことです。三つ目は、事務室を実験室として利用するなど、建設当初の想定と異なる用途として利用されていることが多々あり、効率的な空調機器の運用ができていないケースがあること、でしょうか。このように、大学キャンパスの形態・特性によってエネルギーの使用傾向が異なるため、それに応じた取組みが求められています。
大平: 大学も自らの取組みを始めているのですね。大学キャンパスならではの特徴というのは、どのようなものでしょうか。大学のキャンパスというと、多様な用途の多数の建物により構成されているイメージがありますが。
坂井: そうですね、大学キャンパスは一言でいえば“小さなまち”のような施設です。文系、理工系、事務系、病院、食堂や運動施設など様々な用途の建物群で構成されています。その中でも特に理工系施設では、特殊機器を利用する研究施設や実験室を多数有しているなど、他の用途にはない特徴が挙げられます。一つ目は、独自仕様の研究所と研究のための特殊な設備・機器が多く、それに伴いエネルギー消費量も多いことです。さらに、特殊な設備・機器からは、発熱も多いので、空調使用も多くなる傾向にあります。二つ目は、実験や研究が昼夜に渡ることも多く、特にオフィスと比べて夜間のエネルギー消費が大きいことです。三つ目は、事務室を実験室として利用するなど、建設当初の想定と異なる用途として利用されていることが多々あり、効率的な空調機器の運用ができていないケースがあること、でしょうか。このように、大学キャンパスの形態・特性によってエネルギーの使用傾向が異なるため、それに応じた取組みが求められています。

カーボンニュートラルに向けた取組みの進め方
大平: 住宅や商業、オフィスなどの取組みとは違ったアプローチになりそうですが、カーボンニュートラルを実現するための大学キャンパスならではの進め方はあるのでしょうか?
坂井: 基本的な進め方には大きな違いはありませんが、まずはエネルギー消費を可能な限り減らす(省エネ)ことと、次に再生可能エネルギーをつくる(もしくは調達する)ことの2つの観点から調査・分析を行った上で、将来目標との整合を図っていきます。
一つ目の省エネの検討においては、はじめに、現地調査を含むエネルギー消費状況の現状把握を行うと共に、CO2削減ポテンシャルがどこにあるのかを探ります。現状把握のデータ分析には、BEMS(Building Energy Management System)データを用いることが有用ですが、歴史的建造物などの古い建物にはBEMSが整備されていないことがあります。その場合は、短期的計測が実施しやすい無線の計測機器を設置するなど、状況に応じてデータを収集します。また、これらの計測データがない場合でも、月々のエネルギー使用量や、統計データ等を用いた分析を行うことで、エネルギー消費傾向を掴むこともできますね。
さらに、把握した情報をさまざまな角度から分析を行った上で、施策の提案を行います。例えば、近年は個別分散空調システムを持つ建物が多いことから、個別のシステムをどのように効率的に更新していくか検討します。その他、研究施設や実験機器のエネルギー消費の効率化については、大学施設の関係者に、実験機器の使い方や利用方法などを確認しながら、改善策を整理します。
二つ目の観点である再生可能エネルギーをつくることにおいては、どこまで再生可能エネルギーが供給可能か、現状把握と導入ポテンシャルを調査検討します。その他、外部からの調達方法、オフセットの方法についても検討しています。
これらを経て、目標であるカーボンニュートラル化が実現できるのか、実現するには何が足りないのか等、実施すべきことを明確化していきます。
范: 現地調査と分析などの検討結果に基づいてカーボンニュートラル化を提案していますが、全ての設備機器などを一括で高効率化することができないという課題があります。そのため、NSRIでは、各設備機器の更新時期や容量の適正化も考慮し、いつ・なにを・どのように変えていけば効率よく、かつカーボンニュートラルに寄与できるかをロードマップとして提示し、実施すべきことをタイムスケジュールと併せて明確化しています。
坂井: 基本的な進め方には大きな違いはありませんが、まずはエネルギー消費を可能な限り減らす(省エネ)ことと、次に再生可能エネルギーをつくる(もしくは調達する)ことの2つの観点から調査・分析を行った上で、将来目標との整合を図っていきます。
一つ目の省エネの検討においては、はじめに、現地調査を含むエネルギー消費状況の現状把握を行うと共に、CO2削減ポテンシャルがどこにあるのかを探ります。現状把握のデータ分析には、BEMS(Building Energy Management System)データを用いることが有用ですが、歴史的建造物などの古い建物にはBEMSが整備されていないことがあります。その場合は、短期的計測が実施しやすい無線の計測機器を設置するなど、状況に応じてデータを収集します。また、これらの計測データがない場合でも、月々のエネルギー使用量や、統計データ等を用いた分析を行うことで、エネルギー消費傾向を掴むこともできますね。
さらに、把握した情報をさまざまな角度から分析を行った上で、施策の提案を行います。例えば、近年は個別分散空調システムを持つ建物が多いことから、個別のシステムをどのように効率的に更新していくか検討します。その他、研究施設や実験機器のエネルギー消費の効率化については、大学施設の関係者に、実験機器の使い方や利用方法などを確認しながら、改善策を整理します。
二つ目の観点である再生可能エネルギーをつくることにおいては、どこまで再生可能エネルギーが供給可能か、現状把握と導入ポテンシャルを調査検討します。その他、外部からの調達方法、オフセットの方法についても検討しています。
これらを経て、目標であるカーボンニュートラル化が実現できるのか、実現するには何が足りないのか等、実施すべきことを明確化していきます。
范: 現地調査と分析などの検討結果に基づいてカーボンニュートラル化を提案していますが、全ての設備機器などを一括で高効率化することができないという課題があります。そのため、NSRIでは、各設備機器の更新時期や容量の適正化も考慮し、いつ・なにを・どのように変えていけば効率よく、かつカーボンニュートラルに寄与できるかをロードマップとして提示し、実施すべきことをタイムスケジュールと併せて明確化しています。

意外と難しい“現状把握”
大平: やはりオフィスや住宅よりもエネルギーの消費傾向の予測が難しいなと思いました。エネルギーの消費傾向の現状分析と予測や対策を講じるにあたっては、BEMSデータの利活用が非常に重要な要素になると思いますが、BEMSの整備状況を含め、データの利活用についてどのように考えていますか?
坂井: 統計データを用いての答えではありませんが、大学キャンパスのBEMSの普及率は建物単位で約2割程度ではないかと推測しています。ただ、全ての建物に必ずBEMSを整備することも現実的ではないと思います。どの建物にどの程度の精度で計測し、データの収集を行い管理していくのかなど、エネルギーを重点的に管理すべき建物を選別し、BEMSを整備することが良いと考えます。BEMSの導入は建物の建設、維持管理運営上でのコスト増加要因となるため、管理上の重要度や施設の用途と規模などを十分に考慮したうえで導入することが効率的かと思います。
大平: エネルギーの消費状況等のデータ収集と分析には非常に有用なシステムではありますが、コストや維持管理の視点など、考慮すべきことも多いのですね。では、省エネ分析から少し視点を変えまして、先ほど范さんから、設備機器の設置年度や機器の効率の話がありましたが、機器側からはどのようなことが言えるのでしょうか。また、こちらも現地調査などを実施しているのでしょうか?
坂井: NSRIでは分析の精度向上と実情に即した提案を行うために、各機器の仕様や設置年度、劣化状況等について、現地調査を含めて情報整理を行っています。この情報を基に、例えば、機器能力や更新時期等を建物別に可視化し、優先的に設備更新を行うべき建物が何かを示すなど、今後のアクションに繋げています。
坂井: 統計データを用いての答えではありませんが、大学キャンパスのBEMSの普及率は建物単位で約2割程度ではないかと推測しています。ただ、全ての建物に必ずBEMSを整備することも現実的ではないと思います。どの建物にどの程度の精度で計測し、データの収集を行い管理していくのかなど、エネルギーを重点的に管理すべき建物を選別し、BEMSを整備することが良いと考えます。BEMSの導入は建物の建設、維持管理運営上でのコスト増加要因となるため、管理上の重要度や施設の用途と規模などを十分に考慮したうえで導入することが効率的かと思います。
大平: エネルギーの消費状況等のデータ収集と分析には非常に有用なシステムではありますが、コストや維持管理の視点など、考慮すべきことも多いのですね。では、省エネ分析から少し視点を変えまして、先ほど范さんから、設備機器の設置年度や機器の効率の話がありましたが、機器側からはどのようなことが言えるのでしょうか。また、こちらも現地調査などを実施しているのでしょうか?
坂井: NSRIでは分析の精度向上と実情に即した提案を行うために、各機器の仕様や設置年度、劣化状況等について、現地調査を含めて情報整理を行っています。この情報を基に、例えば、機器能力や更新時期等を建物別に可視化し、優先的に設備更新を行うべき建物が何かを示すなど、今後のアクションに繋げています。

今後の展開
大平: 大学のカーボンニュートラル化に向けた道のりが長く感じますが、コツコツと進めていくことが重要ですね。最後に、他の用途におけるカーボンニュートラル化の手法について、これまでの経験からアドバイスがあればお願いします。
范: やはり、大学のように多様な用途と特殊な実験機器・施設により構成されている場合は、目的と用途にあったアプローチを講じ、その中でできることを模索していくことが大事だと思います。私たちのように外部の人間としては、施設に対する理解を深めた上で分析・提案を行っていきたいです。
坂井: 大学も他用途も共通のことですが、利用者(大学の場合は学生や教職員等)を巻き込んだ活動が必要ですね。施設管理者だけでの努力ではカーボンニュートラルは遠い目標です。利用者の意識を変え、さらに行動に移してもらうために何を講じたらよいのかという点を意識しながら調査を行うと、有効な提案につなげられると思います。
范: やはり、大学のように多様な用途と特殊な実験機器・施設により構成されている場合は、目的と用途にあったアプローチを講じ、その中でできることを模索していくことが大事だと思います。私たちのように外部の人間としては、施設に対する理解を深めた上で分析・提案を行っていきたいです。
坂井: 大学も他用途も共通のことですが、利用者(大学の場合は学生や教職員等)を巻き込んだ活動が必要ですね。施設管理者だけでの努力ではカーボンニュートラルは遠い目標です。利用者の意識を変え、さらに行動に移してもらうために何を講じたらよいのかという点を意識しながら調査を行うと、有効な提案につなげられると思います。