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私たちは、都市デザインと建築環境に関するエンジニアリングの融合のもと
「持続可能な社会の構築」を目指して活動しています。

新たな研究分野など

地区スケールで取り組む持続可能な都市再生|Just Communities(旧EcoDistricts®)

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第17弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

脱炭素と持続的発展を両立する地域モデルへ

近年、SDGsやESG投資などが社会に浸透し、都市計画・まちづくり分野においても脱炭素と持続的発展を両立する地域モデルの実現が目指されています。これまで日建グループは都心部を中心とした再開発プロジェクトをリードしてきましたが、COVID-19や人口減少・超高齢化社会等を背景に、面的な開発には至らない既成市街地や地方都市においても、地域課題解決と地域価値向上を兼ね備えた都市再生が必要とされるようになっています。

米国ポートランド市発祥のEcoDistricts®とは?

NSRIでは、2021年より自主研究にて、地区スケールで持続可能な都市再生に取り組む米国ポートランド市発祥の「EcoDistricts®(エコディストリクト)」に着目して調査を続けてきました。エコディストリクトは、既成市街地における地区スケールのハード及びソフトのプロジェクトを通じて環境負荷の小さい都市をつくる枠組み(図1)として、2009年に米国オレゴン州ポートランド市で始まりました。エコディストリクトの枠組みの特徴は、地球規模の環境課題に対して、地区スケールの市街地再生・更新を通じて対応するアプローチであることです。地区スケールは迅速にイノベーションを起こすのに十分小さく、意味のある影響をもたらすのに十分な大きさをもつ、と言われています。
図1 ハード及びソフトのプロジェクト通じて環境負荷の小さい都市をつくる
図1 ハード及びソフトのプロジェクト通じて環境負荷の小さい都市をつくる
出典:EcoDistricts® Road Mapを基に作成

EcoDistricts®からJust Communitiesへの進化

エコディストリクトの枠組みは、設立時から現在に至るまで、都市課題の変化に対応して進化しており、設立当時はグリーンインフラやグリーンビルディングなどの持続可能性の環境的側面を重視した内容でした。しかし、現在では、社会的なレジリエンス、健康+ウェルビーイング、社会的弱者を含む地域社会の公正性などを含む、より包摂的な内容になっています。2022年には、運営主体である非営利組織EcoDistricts®はジョージア州アトランタ市を中心に活動する別の非営利組織パートナーシップ・フォア・サザン・エクイティ(Partnership for Southern Equity: PSE)に統合され、プロトコルと認証制度は、ジャスト・コミュニティ(Just Communities)に発展しました。

2024年1月に発表されたジャスト・コミュニティ・プロトコル1.0(Just Communities Protocol 1.0)は、人種的に公正で環境的に再生可能な建築・都市の開発を推進するために、住民リーダー、地域に根差した団体、開発事業者、自治体の力を引き出すための新しい包括的かつ実用的な実装フレームと認証基準からなります。その枠組みは、市民参加、住宅、経済開発、交通、公衆衛生、安全、食糧、公園とオープンスペース、エネルギー、水、環境保護の各分野において、社会、経済、環境にとって意義のある成果が上がるよう支援するものとして設計されています。
図2 Just Communities Protocolv.1.0(2024年1月公開)
図2 Just Communities Protocolv.1.0(2024年1月公開)
出典:https://justcommunities.info/protocol/
ジャスト・コミュニティ・プロトコル1.0は、図2の通り、下記を軸とした認証制度で構成されています。

中心部にある2つの柱
「人種的公正(Racial Equity)」
「気候変動への適応とレジリエンス(Climate Resilience)」

5つのコミットメント領域
「ビロンギング(Belonging)」
「機会(Opportunity)」
「健康と幸福(Health & Wellbeing)」
「モビリティ(Mobility)」
「環境(Environment)」

実現段階の4つの要素
「グランドワーク(Groundwork)」
「ガバナンス(Governance)」
「ロードマップ(Roadmap)」
「実現(Implementation)」

ジャスト・コミュニティは、CASBEE、LEED等でも提示されている市街地の性能基準に、地域主体主導の既成市街地再生の体制やプロセスの規範が加わった新しいタイプの認証制度となっています。

事例|Lloyd EcoDistrict(ロイド・エコディストリクト)

ロイド・エコディストリクトは、アメリカ・オレゴン州ポートランド市のダウンタウン北東に位置する約160haの商業業務地区です。地区には大規模商業施設やコンベンション施設、オフィスが立地し、就業者人口約2万4000人に対して居住人口は約2100人と少ない地区です。2011年に非営利組織を設立し取組を開始し、現在は地区のBID(注1)であるロイド・エンハンスト・サービス・ディストリクト(Lloyd Enhanced Services District: ESD)の支援を受ける非営利組織ロイド・エコディストリクト(Lloyd EcoDistrict)が活動しています。ロイド・エコディストリクトでは、Just Communities(旧EcoDistricts®)の枠組みに沿って、公正性・レジリエンス・気候保護を実現するプロジェクトやアイデアを地域参加型で進めています。既成市街地においては、道路空間や既存ビルを対象に、小規模プロジェクトの積み重ねを通じて段階的に地区の再生が行われています。

※注1:BID(Business Improvement District)とは、米国・英国等において行われている、主に商業地域において地区内の事業者等が組織や資金調達等について定め、地区の発展を目指して必要な事業を行う仕組みです。

【プロジェクト例】

出典:Lloyd EcoDistrict HP, https://www.ecolloyd.org/を加工して作成
出典:Lloyd EcoDistrict HP, https://www.ecolloyd.org/を加工して作成
  1. 地区内施設のエネルギー効率化プロジェクト(エネルギー使用量を12%削減)
  2. 改修費の一部をアフォーダブル住宅開発に寄付するLED改修プログラム
  3. 自転車専用道路への花粉媒介者用多年草プランターの設置
  4. 環境に配慮した次世代開発(LEED認証建築、家庭排水・下水の浄化と再利用、廃棄物リサイクルなど)
  5. 若者と高齢者の住民による交差点ペインティングプロジェクト

日本の地区スケールのまちづくりへの展開

日本の地区スケールのまちづくりは、住環境整備、景観、防災・減災、災害からの復興、商店街活性化等の分野別にアプローチすることで、地区の課題解決に貢献してきました。しかし、地球規模の気候変動への対応や社会レジリエンス・公正性の確保といった、より大きな課題には必ずしもうまく対応できていないように思います。Just Communitiesのような、既成市街地の段階的な更新を促進する枠組みは、世界共通の課題に対応しつつ、より高い目標の下で地区の再生を持続的に進め、より良い社会と空間をつくる、強力なツールであると考えられます。NSRIでは、Just Communitiesの枠組みを活用し、まちづくりGXやリジェネラティブな都市を実現するまちづくりビジョンやガイドラインの検討、目標設定やモニタリングの支援をしていきたいと考えています。

参考

  • 久保夏樹ら, エコディストリクト認証制度の成立過程と適用事例の実態-既成市街地の持続再生に向けた新たな枠組み, 日本都市計画学会都市計画論文集, Vol.55.No.3, pp.976-983, 2020
  • 村山顕人,久保夏樹,『パブリックスペース活用事典』,156-159頁(学芸出版,2023)
  • Just Communities(https://justcommunities.info/)
  • Lloyd EcoDistrict(https://www.ecolloyd.org/)
  • エコディストリクト研究会(https://note.com/eco_d_research)※日建設計総合研究所・東京大学都市計画研究室のメンバーを中心とする研究会

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