
日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第27弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。
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近年、公立小中学校体育館の空調設備の設置が全国的に進みつつあります(※1)。平常時の教育活動における快適な環境の確保に加え、非常時の避難所として必要な機能がどのようなものか等、環境的な側面での考察が求められています。また、新型コロナウイルス感染症への対応を受けて、換気に対する意識が高まり、学校では換気の重要性が改めて認識されました(※2・※3)。換気をしながら適切な室内環境を維持することは、平時・非常時においても不可欠な要素となります。
冬季において窓や扉を締め切って暖房する場合に比べて、窓や扉を開いて換気をしながら暖房をすると、室内の温熱環境の悪化を招くことになります。学校衛生基準では温度は「18℃以上、28℃以下であることが望ましい。」とされていますが、外気を直接取入れることで、この基準を満たさない温度や場所が生じるおそれがあります。このことから「学校衛生基準に示される温度を保ちつつ、換気量を確保する窓・扉を開け方とは?」について調べることとしました。
しかしながら、空調設備が運転され、かつ換気がされている状態での公立小中学校体育館の温熱環境に関する実測データはほとんどありません。(※4)
そこで私たちは空調設備が設置された実際の学校体育館を対象に、暖房している状態での換気量と室内温度環境を実測することにより、学校体育館における暖房と換気量の関係性を調べました。
冬季において窓や扉を締め切って暖房する場合に比べて、窓や扉を開いて換気をしながら暖房をすると、室内の温熱環境の悪化を招くことになります。学校衛生基準では温度は「18℃以上、28℃以下であることが望ましい。」とされていますが、外気を直接取入れることで、この基準を満たさない温度や場所が生じるおそれがあります。このことから「学校衛生基準に示される温度を保ちつつ、換気量を確保する窓・扉を開け方とは?」について調べることとしました。
しかしながら、空調設備が運転され、かつ換気がされている状態での公立小中学校体育館の温熱環境に関する実測データはほとんどありません。(※4)
そこで私たちは空調設備が設置された実際の学校体育館を対象に、暖房している状態での換気量と室内温度環境を実測することにより、学校体育館における暖房と換気量の関係性を調べました。
まだまだ少ない実測データ
公立小中学校体育館の温熱環境に関する計測データが少ないことに課題に感じ、体育館に求められている機能等の整理を目的に、自主研究で実測を試みました。
閉校した元学校体育館で実測データを取得する
今回の研究では閉校した小学校体育館(空調設備設置あり)を持つ自治体様にご協力いただき、実測を実施しました。

窓や扉以外にも開口はある
学校体育館には窓や扉以外にも開口があります。開閉機構がなく、常に開いた状態で外気の出入り口となる開口が各所にあり、体育館上部の開口部と下部の開口部の高低差は6m程度でした。




今回の実測フィールドの開口(ガラリ)の数、位置は以下のとおりです。

測定機器の設置
データを取得するために温度を計測するためのセンサーを設置しました。



実測と換気量の推定方法
2023 年12 月8 日(金)に実測を行いました。ガラリを塞がずに開けたままとした場合、体育館の上部と下部や外気と室内の空気の温度差が作用することにより、空間の下方のガラリからは外気が流入し、上部のガラリから室内の空気が流出します。今回はすべての窓を閉めた状態で、空調設備の目標設定温度を22℃に設定し、実測を行いました。


今回、実測を行った小学校体育館には、換気扇等の機械換気は設置されておらず、自然換気のみが行われている施設でした。そこで、温度差換気の公式を用いて推定換気量を計算することにしました。換気量を推定するために、室内の平均温度を実測により取得する必要があるため、平面図中央部に位置する温度センサー(図3の①②⑤⑥)で得られた温度データを高さ別に平均し、各高さにおける平均温度をもとに計算を行いました。また、換気量を推定するにあたり、表2の開口に加え、扉の隙間など現地で目視できる隙間があったため、その隙間も計算上考慮して換気量を算出しました。

実測結果
居住域(人がいる高さ)の室内温度はおおむね22℃で推移、外気温度は15℃~17℃程度で推移しました。

12時時点での平均鉛直温度分布は図5のとおりです。床面近くでは21℃、居住域の温度は22℃程度、天井近くでは23℃程度となっています。

外気温度と室内温度の差とガラリ通風量の関係性
今回の実測データや温度差換気の公式を用いた推定換気量の計算をもとに、外気温度と室内温度の差 ΔT とガラリ通風量の関係性を図6のように推定することができました。

仮に在室人員一人あたりに必要な換気量を30㎥/h、在室人員数は避難所を想定した57人の場合を仮定する(※5)と1,710 ㎥/hの換気量が必要となります。実測フィールドの実態に準じると、「隙間含む」では外気温度と室内温度の差 ΔT が3.5℃、「ガラリのみ」であれば、 ΔT が5.6℃で、1,710 ㎥/h程度の換気量が確保できると推定されます。外気温度と室内温度の差 ΔT を縦軸として、時系列での推移を示すと図7のとおりとなり、必要換気量1,710㎥/hの外気の流入を常に維持できていたという結果となりました。

まとめ
暖房設備が設置された学校体育館において、開口部の位置や隙間の情報をもとに換気量を算定した結果、開口部の調整によって温度差を設けることで、自然換気のみでも必要な換気量を確保できることが確認されました。今回の研究で得られた知見から、暖房時にはそれほど大きく窓や扉を開け放たなくとも、必要換気量は確保できることがわかりました。温度差が大きくなることで、必要換気量以上の外気が入ることもわかったため、手の届く位置で開口を調整する機構があると換気と快適性の両立が図れます。平時においては児童生徒・教職員等の学校関係者が利用するための温熱環境を維持することが求められる一方、非常時においては避難者が利用するための温熱環境を維持することが求められます。学校体育館に空調設備を新たに設置する場合には、これら異なる2つの利用シーンを想定した設計・施工・運用の各段階において検討することが望ましいと考えられます。
当社では、公立小中学校体育館空調設備導入に関する入札・発注支援のアドバイザリー業務等を行っています。今後、今回の研究から得られた知見も活かし、要求水準書等の作成においても、より実効性の高い支援を提供してまいります。
当社では、公立小中学校体育館空調設備導入に関する入札・発注支援のアドバイザリー業務等を行っています。今後、今回の研究から得られた知見も活かし、要求水準書等の作成においても、より実効性の高い支援を提供してまいります。
謝辞
本研究に適したフィールドである閉校した学校体育館での実測の機会をくださいました東京都北区様、実測実験を行っていただきました一般社団法人文教施設協会様(※6)、東京理科大学倉渕研究室(※7)の皆様にお礼申し上げます。
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- 文部科学省 公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/mext_01278.html
- 文部科学省 学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル(2023.5.8~)4頁 https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00029.html
文部科学省「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」では、冬季における換気の留意点として、「冷気が入りこむため窓を開けづらい時期ですが、空気が乾燥し、飛沫が飛びやすくなることや、季節性インフルエンザが流行する時期でもありますので、換気に取り組むことが必要です。気候上可能な限り、常時換気に努めてください(難しい場合には30分に1回以上、少なくとも休み時間ごとに、窓を全開にします。)。」と記載がされています。 - 文部科学省 学校環境衛生基準 文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1353625.htm 学校環境衛生基準では「換気の基準として、二酸化炭素は、1500ppm以下であることが望ましい。」との記載があります。
- 市内の小学校体育館における暑熱環境調査,川崎市環境総合研究所年報第10号 2022,p19-25
- 「避難所における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」(https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/about/soshiki/koko/kikaku/hinanjo-guideline_covid-19)を参考に、実測フィールドとした小学校体育館の床面積を考慮、仮に避難所として使用した場合を想定しパーティションを設置し通路幅を2m とし、在室人員を57人(2人27組、1人3組)と想定しました。東京都 避難所における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン(東京都避難所管理運営の指針別冊)
- 同協会発行の「季刊文教施設2024春号 No.94 特集 既存学校施設(体育館)を使用した実証実験から、学校施設の避難所としての防災機能状況を考える 「学校体育館(冬季)の温度環境と換気風量に関する調査研究」報告書」 を是非ご覧ください。
- 写真1、写真7は当社撮影。写真2~写真6、図1~図7は東京理科大学倉渕研究室からのご提供。



