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1.英国におけるCO2排出量削減の枠組み

2.広域都市圏にみる排出量削減の方法―大ロンドンの取り組みに着目して─

3.開発事業に求められること─行政が民間に何を求めるか?─

4.分散型エネルギーネットワークのための公共と民間の関係

5.今後官民連携で考えるべきことは何か?

パネルディスカッション

フリーディスカッション



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パネルディスカッション

山村 先生、どうもありがとうございました。
今、行政側のやるべきことと官民連携のあり方ということで、イギリスの熱供給事業を中心にいろいろご紹介いただきました。熱供給事業がビジネスとしてなかなか難しいというのは、日本でもわかっている人はわかっていると思います。それに対してポジティブな考えを持つ人がどれだけたくさんいるのか、私もよくわからないところです。こういった調査、しかも、エネルギー専門家とは異なる都市計画のご専門の方の視点で調査された内容に、今日改めて気づかされたことが多かったと感じます。視点が変わると、同じものを捉えてもこんなに違うんだなと驚かされました。
ヨーロッパの熱供給に対する調査あるいは国内の熱供給の事業の方の調査報告書といったものは既に幾つかあって、ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、大体景気のいい話はないんです。技術論を中心に据えて、実現化や事業の継続といった観点で進めると、どうしてもだんだん暗いほうに行ってしまうところがあります。ただ、できない理由を探すのはとても簡単なんだと思います。先ほどの先生のお話にもありましたが、低炭素社会にしていくためにできる方法や可能性をどう探していくかという視点がとても大事なのではないかと、改めて痛感いたしました。
先生からは学術、学識のお立場ということでお話しいただきましたが、ここからは、まちづくり、都市づくりの実務の専門家、それから、私が環境・技術の実務分野の人間という形をとって、本日の議題に沿ってもう少し議論を深めたいと思いまして、パネルの形で話を進めさせていただきたいと思っております。
ここで、先生と私と、都市計画の実務の専門家ということで、弊社にて国内外の都市施策や都市計画にかかわっております石川貴之上席研究員に参加をしてもらいます。この3人でまた議論を進めたいと思います。石川さん、お願いいたします。
石川は、例えば、国土交通省の中国エコ都市の基準や国内外のマスタープラン策定などをしております。
それでは早速、皮切りに私のほうから幾つか質問をさせていただきたいと思います。
先ほど、腹をくくるという言葉が出てきて、ひそかに賛同しておりました。そもそも論で、低炭素都市や低炭素社会を実現していくということについて、本当にどこまで共通認識として皆さんがお持ちなのか。私の立場では実現するのは当然くらいに考えていますが、いろいろな方が多様なご意見をお持ちで、そうでもないんだなというところもあります。英国では、2030年にCO2排出量の80%を削減するという途方もない目標を立てていますが、他方、日本では昨年政権が変わって、国のCO2排出量の目標設定については見直しすることになっており、ますますどうすべきなのかがよく見えないところです。
必然性が明快なのかどうなのかという視点で、先生には、イギリスの場合、ロンドンなどの都市、自治体の皆さんが、こういう上位計画や目標を強く意識しているように見受けられますが、一体どうしてそういうことになったのかを教えていただきたいと思います。国でまず、そういう施策があると思いますが、それを受けて皆さんどのように受け止めておられるのか、あるいは独自のものをつくっていかないといけないと自治体が動いているのか、そのあたりどうでしょうか。
村木 イギリスは基本的に中央集権です。地方分権と言われているけれども、そうではなくて、国がやると言ったらみんなやらないといけない。国が言ったことを地方自治体が受けて、地方自治体はどんどん実現していくためのプログラムをつくっていくということです。必然的にやらざるを得ない状況をつくり上げています。
 日本に帰ってくると、「低炭素」という言葉があって、いろいろなところから低炭素まちづくりに関心があるが、何がいいかということを言われたりします。例えば都市計画マスタープラン策定のお手伝いをしても、個別建物の低炭素化は施策対応を行っても、面ということを入れた瞬間に、「反対があるから、この政策を消してもいいか」と言われてしまいます。そうすると、「本当にやるんですか。やる気あるんですか。やるんだったらちゃんと調整しないとだめですよね」ということになる。いろいろ突っ込んでいかないと、日本の中ではなかなか進んでいかない。その辺がイギリスと温度差があるかなという感じがします。
 しかし、日本が物すごくダメなのかというと、そういうわけでもない。私がこういう低炭素型都市づくりの研究を始めた最初の頃は、イギリスに行って環境の担当の人と話をすると、「都市計画の担当者は馬鹿ばっかりで何もわかってない。何にもわかってないから、すぐ計画を不許可にしようとする。これを入れればもうちょっとCO2が下がるのに。」と言っていました。それが何年か経つと、そういうことを余り言われなくなったんです。都市計画の担当者も時間を経る中で、自分たちが何をやらなければいけないのかわかってきて、その協議も短縮化され、教育も進んできたということがあります。日本でも、今の段階はそうでも、数年経ったら、もしかしたらそうではないのかもしれないです。
山村 環境部門、都市計画の部門など関係部門が認識を合わせていくことについては、イギリスでさえもこういう状況だったということですね。そういう意味では民のほうがもっと温度差が小さくなっていると思われますが、石川さん、そのあたりどうでしょう。
石川 都市計画をご専門になさっておられる名だたる方がいらっしゃる中で私がここに立つのは非常に心苦しく、ご質問の民の視点ということになるかどうかわかりませんが、今たまたま国土交通省さんが中心になって展開されている、海外に日本の街づくり技術をパッケージ輸出しようという仕事のお手伝いをさせていただいています。その中の大きな柱は、低炭素や省エネルギーについて、日本の進んだ技術をまちづくりと一体となって展開していこう。しかも、それをこれから都市化が進む東南アジアとか新興国を中心に展開していくということでやっています。
ただ、カタログ的といいますか、カタログでは必ずこういうパフォーマンスがありますということを海外に対しては言ってはいますが、国内にそれらの環境技術を使ってトータルなまちづくりとして完成した実作がないところに、民間の方々もかなりもどかしい感じがするのではないかと思っています。先程の村木先生のお話を聞いて、国が腹を決めて、いろいろな技術をパッケージ化してまちづくりとして低炭素をやることに対してアクセルを踏む、そういう後押しをする部分が現実的には、なかなかないので、オールジャパンとして、民間のパワーも生かされていないのではないかなという感じがします。
 民間でまちづくりをやっている方々は、自分たちが世界で生きる道として低炭素をどうやって、日本国内や海外に向けて普及させていくかを考えていますし、それは、ただ単に省エネルギー化ということだけでなくて、トータルな都市づくりとして進めなくてはいけないということでもあり、環境・エネルギーと都市計画での温度差は、かなり縮まっているという感じがします。
山村 先ほどの先生のお話の中で、Climate Change Act実施のために、制度側のスキーム、融資とか税制優遇等に関連して、非常に多くのプログラムが準備されており、それが全貌がよく俯瞰できない中でありながらうまく連動しているというご説明がありました。日本から見ると、本当にうまく連動しているのか、どううまく回しているんだろう、一体誰がこれをコントロールしているんだろうという疑問がやはり残るのですが、それが行政だというお話でした。行政の中でそういうコーディネーター的な役割をされる方がいらっしゃるんでしょうか。あるいはコンサルみたいなところに出してやっているんですか。
村木  それは多分ケース・バイ・ケースだと思います。先ほどたくさんのプログラムのご説明をしましたが、あれは私の理解なんです。イギリスの温暖化対策はとにかくたくさんあって、全部読んでいると、一体何がどう関係していて、どれとどれがどのように関係しているのか、さっぱりわからない。目的が一体何なのかを自分でまとめて、これは何につながるというのをまとめてみたら、結局はClimate Changeなんだということがわかりました。あれは私の頭の整理に近いものなのです。ただ、行政の担当者は、いろいろなプログラムやいろいろなファンドをみんなご存じなので、これとこれを使うとこうだよねと言われたりします。
ただ、温暖化対策の中で、どれが一番効いているとかいうことは多分余りないと思います。都市計画の中で、熱供給事業をしている方たちが言われるのは、熱導管の接続義務を積極的に進めてくれているのは、とにかく物すごく大きな後押しだというのはあります。

 

 

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