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見える化による行動変容を用いたスマート空調の実装

関西国際空港第2ターミナルビルを舞台にし、脱炭素(CO2削減)と感染症対策の2つの社会課題解決を目指し、スマート空調システムを導入したプロジェクトをトークテーマに、担当した山田一樹主任研究員と堤遼研究員、久保夏樹研究員が座談会を開催。とてもチャレンジングで今後に繋がる知見を得られたプロジェクトであったと振り返りました。

CO2削減と感染症対策の2つの社会課題解決を目指したプロジェクト

久保: 日建設計総合研究所(NSRI)では、鈴木執行役員を中心にCO2削減を目指した「AIスマート空調」の研究を2016年ごろから開始し、現在に至るまで施設種別ごとのモデル構築のための実証を進めながら、実装化プロジェクトを展開しています。今回は、環境省の令和2年度革新的な省CO2型感染症対策技術等の実用化加速のための実証事業『空港等における感染リスク見える化と殺菌性能を付与した高度スマート空調技術開発・実証』にて、関西エアポート(株)主体のもと、神戸大学と協力して、温熱環境や人の粗密を反映し空調を制御するスマート空調システムを導入しました。振り返るととてもチャレンジングなプロジェクトでしたね。

山田: そうですね。縦にも横にも広い大空間での省エネと、人が活動している中での新型コロナ感染予防対策の2つが大きなミッションでした。そこで新たに取り組んだのが、見える化による行動変容です。対策に関する情報を見える化することで、人々の意識や行動を変えられないかと考えました。例えば、省エネしているので夏は少し暑く、冬は少し寒いエリアがあるというのを見える化することで、場所を選んでご利用頂けます。また、空気のきれいなエリアを指数で示すことで、利用者が自発的にエリアを選び、安心感を持って過ごすことができます。
関西国際空港第2ターミナルビル

2つの新たな技術開発にチャレンジ

久保: 今回のプロジェクトでは大きく2つのことにチャレンジしました。山田さんの話にもありましたが、この空港は大空間で天井は高いところで6~7mあります。これまでは均一に空調していましたが、省エネ化を図るため必要な場所のみ空調し、熱を効率的に使うことが求められました。そこで、大空間の温熱環境をはじめ、空気の質に関するCO2濃度やオゾン濃度、粉じん量を知るためのセンシングにチャレンジしました。天井が高いため、気球を飛ばしたり、長い棒を持ってみんなで走り回りました(笑)。

堤: 気球は気象観測用のものを購入し、ガスも買ってきて膨らませました。ドローンは制約があって空港施設内では飛ばすことができなかったんです。

山田: なぜセンシングが必要だったかというと、情報収集のためです。温度は上が暖かく下は冷たいことはよく知られていますが、CO2の濃度はどこが濃いのか?対策に用いるオゾンはどういう風に空間に広がっていくのか?など1つ1つ計測し、安全性も含め大きな空間の全容を確認しました。情報を収集した上で、これをどう見える化していくかをみんなで考えていきました。

久保: 2つ目のチャレンジがその可視化です。情報を見える化して利用者に届け、行動変容を促すことを目的に、温熱環境と空気の清浄度を定量的に数値化し可視化する技術を開発しました。温度は室温の分布、空気の清浄度の定量化は、文献をもとに「空気のきれい指数」を算定しました。

山田: この「空気のきれい指数」というネーミングは話し合いを重ね、単純明快で利用者に伝わりやすいものが良いということで決まりました。単純に指数として50、70などの数値で示すと、その数値が良いのか悪いのかが分かりにくいため、実証を通じて指数も「きれい・ややきれい・ふつう」の3つの言葉に改善しました。

久保: 空港施設でどう情報を伝えるかというところでは、今回3つの方法で実施しました。モニターを活用したデジタルサイネージと床面や壁面へのプロジェクター照射、もう1つが照明を使った見える化です。温熱環境や空気の清浄度を5段階のグラデーション照明で分かりやすく表現し、空間全体を使って見える化をしました。
気象観測用の気球を利用した計測

ナッジを活用し行動変容を促す

山田: 人流や人の行動を意識したコンテンツ配置計画などは、都市計画を専門とする久保さんが主に担当しました。環境部門の我々には無い視点で頑張ってもらいました。広い空間をどう使うか、どう空間をつくり出すか、なぜこんなことをやっているのかを伝える難しさなど、取り組んでみて初めて知ることが多かったですね。

久保: 動きのあるコンテンツやキャラクターは子どもに人気があり、子どもが興味を持つと大人も立ち止まってくれるため、分岐点などの動線を誘導する際に活用しました。

実証と併せて効果検証を行うため、利用者に行動変容に関するアンケート調査を実施しました。その結果を見ると「温熱環境や感染予防対策などの情報コンテンツを見て意識した」と回答した方のうち、2~3割が実際に行動に移していました。

堤: さらに、空港では口コミによる情報が広がりやすく、情報の広がりが行動する人を増やしていることもわかりました。団体客も多く、より人から人への伝達がうまくいき行動にも結び付いていたのだと思います。また、待合空間では、年代が高いほど混雑を避けるように場所を選び、年代が低いほど搭乗口の近さや什器の種類などで場所を選んでおり、年代別の行動意図の傾向もわかりました。

今回不特定多数の方に対して行動変容を促すためにナッジを取り入れています。関連するナッジ活用事例では、情報をコントロールしたコンテンツ(ポスターなど)を目的の場所に表示する施策を通じて、行動変容の様子を調査する研究がほとんどでした。今回は行動変容をねらう場所だけでなく、建物内部の動線上に数種類のコンテンツを配置するなどの空間的工夫を含めた知見を集められたのは、これまでのナッジ研究にないところです。
サイネージ上に「空気のきれい指数」を表示し、利用者の密回避行動を促す
床面投影で空気がきれいな方向へ誘導

今後の展望

山田: 今回得た知見は空港だけでなく様々な用途の施設で活かせると思いますし、建築のプランへの提案もできると思います。

堤: そうですね。エネルギー以外の分野でも活かされると思います。特に行動変容を促すナッジの知見は、幅広い分野で使えます。年齢や性別の差で異なるアプローチができると効果的だと思います。

久保: 空調制御やウィルスフリーユニットで物理的に対策していくというのはありますが、それに加えて、人の意識や行動を変えることで省エネ化・低リスク化をより促進することができると思っています。今回、きちんと空間を定量的に把握し、見える化して人の行動を促すという部分の有意義な知見が得られましたので、今後に展開していきたいと思います。
左から堤研究員、久保研究員、山田主任研究員

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