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OFF EARTH|地球の外に、都市をつくるNo.1 First Light 宇宙都市の現在地と未来予想図

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。自主研究スピンオフ「OFF EARTH|地球の外に、都市をつくる 」の連載第1弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

夢が現実になり始めた

「次の都市開発プロジェクトは、火星で。」そんなSF小説のようなセリフに胸が躍りませんか?人類はこれまで宇宙に憧れ、多くの物語で月や火星、さらにはそれらの軌道上にまちを描いてきました。しかし、今、その夢が現実のプロジェクトとして動き出そうとしています。月面に基地を建設し、火星に自給自足の都市を築く。そのような構想が、世界中の宇宙機関や企業によって真剣に検討され始めているのです。「まさか本当に?」と思う方こそ、ぜひ、現在進んでいる計画を覗いてみてください。宇宙に都市をつくる計画は、もはや絵空事ではありません。

宇宙都市開発の思想

火星表面に建設されたまち、地球軌道に浮かぶ回転コロニーといった、多種多様なイメージにあふれる宇宙都市構想を俯瞰すると、開発における「動機」の違いから「都市」のかたちの輪郭が見えてきます。代表的な宇宙開発の動機としては大きく3つあります。1)

  1. 文明の存続:人類の長期的存続を保障するために、火星など複数惑星に自立可能な拠点を築く
  2. 文明の拡張:人類の進化の一環として宇宙フロンティアへの拡張は必然であるとして、知的好奇心を追求する
  3. 地球環境保護:地球の環境破壊や資源枯渇を回避し、宇宙資源を積極活用して地球社会を持続可能に維持する
図1 宇宙開発における3つの動機(出典:日建設計総合研究所にて作成)
図1 宇宙開発における3つの動機(出典:日建設計総合研究所にて作成)
動機が異なれば宇宙都市の形態にも違いがうまれます。NASA等に代表される公共政策的な推進もあるなかで、ここでは際立った2つの思想から宇宙都市の様相を描いてみます。

1つ目に、イーロン・マスク氏に代表される文明の存続・拡大志向では、新たな文明拠点として自給自足可能な機能を惑星ごとに確保する「都市の多惑星展開」が構想されています。2つ目として、ジェフ・ベゾス氏に代表される地球環境保護を志向すると、居住機能は地球を中心に残しながらも、重工業など一部機能を宇宙に分散させて惑星間で都市圏域を構成する「都市の宇宙空間拡張」が構想されています。このように、動機の違いによって異なる宇宙都市の形態がみえてきます。
図2 動機による都市形態の違い(出典:日建設計総合研究所にて作成)
図2 動機による都市形態の違い(出典:日建設計総合研究所にて作成)

月・火星の都市構想──事例にみる宇宙都市設計の現在地

図3 月面環境イメージ(出典:AIで作成)
図3 月面環境イメージ(出典:AIで作成)
月や火星に都市を築く構想の事例として、まずは、NASAのアルテミス計画2)に注目してみましょう。アルテミス計画では、月に長期滞在し探索することで、科学の発見や発展、火星への有人飛行を目指しています。アルテミス計画は現在アルテミスⅣまでの詳細が公開されており、アルテミスⅠは月の周回無人飛行、アルテミスⅡは月の周回有人飛行、アルテミスⅢは月の南極付近の探索、アルテミスⅣは月面宇宙ステーションを建設するミッションです。アルテミスⅠは2022年11月に既に完了し、アルテミスⅡは2026年4月ごろ、アルテミスⅢは2027年半ばの予定で、有人飛行による月の探索はすぐそこまで来ています。

次にご紹介する事例としては、月における商業拠点としてMoon Village3)が計画されています。Moon VillageはSOM、MIT、ESAが力を集結し、人類初の月面居住地の建設、マスタープランの作成に取り組んでいます。村を拓く敷地には、日陰となるクレーターや水が存在するとされる南極が選ばれており、月面で都市計画を考える上では、安全性、効率性、成長能力を要件とし、月面特有の条件である低重力、極端な温度差、放射線、小隕石の衝突などを考慮することの必要性が指摘されています。
図4 火星表面環境イメージ(出典:AIで作成)
図4 火星表面環境イメージ(出典:AIで作成)
火星に目を向けると、ABIBOOがNüwa4)を提案しています。Nüwaは、火星の崖の斜面で、豊富な水や間接日射を得ながらも、放射線や隕石から護られた垂直都市を形作る構想です。Nüwaのデザインの中核は持続可能性であり、火星の定住地で資源を入手することを考えています。都市としては、住宅と作業所となる崖内部の「マイクロビル」、崖上の「マクロビル」、それらをつなぐ「スカイロビー」、農業やエネルギー生産施設を含む「メサ」、さらには、渓谷に病院、学校、スポーツ施設、ショッピングエリアなどの構造物が考えられています。

一方、都市を形成し人類が活動するためには、輸送を欠かすことはできません。人類を多惑星種(マルチプラネタリー)にするための道として、SpaceX5)は火星と地球を往復する輸送システムの実現に向けて、様々な取組を行っています。その一つに、宇宙船スターシップの開発があります。スターシップは最大100人を長時間の飛行となる惑星間を輸送する機能を有し、地球の低軌道上での補充能力も備えています。これらの性能は、地球外だけではなく、地球上でのP2P(ポイントツーポイント)輸送においても期待されています。
図5 軌道上環境イメージ(出典:AIで作成)
図5 軌道上環境イメージ(出典:AIで作成)
そのほか、ベゾス氏が掲げるように、惑星表面だけでなく軌道上に宇宙都市(例えばスペースコロニーなど)を作り快適な地球環境を再現する構想もあり、地球上とは全く異なる多様な都市のあり方が考えられます。

宇宙都市のリアル—空想で終わらせないために

10年前ならSFと一蹴されたアイデアが、いま現実味を帯びている背景には主に3つの社会的変化があります。

  1. ロケットのコスト革命 :再使用型ロケットの普及で、打ち上げ費用が桁違いに低下している
  2. 地球規模課題の鮮明化 :気候危機や資源制約など、地球外に活路を求める動機が強まっている
  3. 建築・都市分野の参入 :建築・都市の専門家が参画し、“住み続けられる空間デザイン”の知見が統合され始めている

これらの変化が重なり、宇宙都市構想が「技術実証」や「規制議論」という具体フェーズへ進みつつあります。マスク氏のスターシップや、ベゾス氏のオービタルリーフ──いずれも試験機や原型モジュールが組み上がり、実世界でテストされる段階に入っています。

ここで論点として挙がるのは、いかに「生存できる空間」を確保するか、という点だけではなく、質的な面で「生活するための空間」をどのように構築できるか、という問いです。宇宙におけるそのような都市の設計では、空間と機能、そして人間(の感覚・心理・行動)が密接に結びつくものですが、それぞれ考慮が必要な事項をまとめました。
図6 宇宙都市のデザインにおいて考慮すべき項目(出典:日建設計総合研究所にて作成)
図6 宇宙都市のデザインにおいて考慮すべき項目(出典:日建設計総合研究所にて作成)
 これらの空間・機能・人間の3つの観点を「掛け合わせる」ことで、宇宙建築・都市・モビリティ設計における統合的な設計要素が見えてきます。以下に、例としてそれぞれの観点を組み合わせたときに生まれる重要な設計テーマを示します。

  1. 空間 × 機能:「構造と性能の両立」限られた物理的リソースで最大限の機能を実現するため、限られた空間の中で多くの機能をもたせることが必要になります(例えば、居住空間が運動空間や作業空間を兼ねる、人と物資を同時に効率的に運べるインフラ等)。
  2. 空間 × 人間:「快適さと適応性の空間設計」物理的制約の中で人が安心して過ごせる都市を実現するため、閉鎖空間でも心理的に広がりを感じる空間(照明、色彩、視線誘導)や、重力のない環境でも自在に使えるモビリティ(建物内や建物間、都市間、惑星間移動等)、多様な文化や生活様式に応じた場所の柔軟性(パーソナルスペースの確保)等が必要になります。
  3. 空間 × 機能 × 人間:「統合型ヒューマンセントリック・システム」火星や月面のような極限環境では、空間の構成そのものが制度の一部となります。人間を中心に据え、安全・機能・快適さのバランスが取れた“生きた空間”としてのデザイン、人間の感覚や行動パターンを起点にした都市のゾーニングのような、全体最適な居住・移動・作業環境を実現し、社会として機能するための仕組みが必要になります。

このように、3つの観点の交差点を意識することで、「生存できる空間」から「生活するための空間」、ひいては「人が心地よく暮らせる都市」への進化が可能になります。

地球の外で“暮らし”をデザインする時代へ

OFF EARTH DESIGN LABが考える宇宙都市のイメージ(出典:AIで作成)
OFF EARTH DESIGN LABが考える宇宙都市のイメージ(出典:AIで作成)
「宇宙にまちをつくる」と聞けばまだ小説の世界のようですが、アルテミス計画やスターシップ、ムーンビレッジに火星都市 Nüwa まで、設計図と試験機はすでに地上に並び始めています。月面のクレーターに灯る街灯、火星の断崖に瞬く住宅の窓——そのような情景は空想だけのものではなく、技術と設計が少しずつ輪郭を与えつつある未来図です。
課題は多く、放射線防護や資源循環、コミュニティ運営まで挙げればきりがありません。しかし、かつて飛行機や地下鉄が無謀と呼ばれた時代に突破口を開いたように、宇宙都市も一歩ずつ現実へ近づいています。ここで私たちが探るのは、建物の建て方ではなく 「どのような暮らしを紡ぎ、どのような社会を築くか」という次の都市像です。

“未来の生活圏”を具体化するプロトタイプは、地球都市のリデザインにも直結します。高密度居住、循環型インフラ、マイクロモビリティ、コミュニティガバナンス——宇宙都市で試される要素は、そのまま縮小版の持続可能都市モデルとなり得ます。

私たちはこれからも少しずつ想像を現実へ近づけていきます。第1弾では、宇宙都市の現在地を概観しました。次回は人と物が行き交う動線と機能に焦点を当て、宇宙都市のモビリティとインフラを都市・建築の専門家視点でひも解いていきます。

参考文献

1)Fred Scharmen(2024)「宇宙開発の思想史: ロシア宇宙主義からイーロン・マスクまで」ほかデスクトップリサーチ
2)アルテミス - NASA、https://www.nasa.gov/feature/artemis/
3)20191213_som_research_iac_paper.pdf
4)Nüwa, the first sustainable city on Mars • ABIBOO Studio、https://abiboo.com/projects/nuwa/
5)SpaceX - Missions: Mars、https://www.spacex.com/humanspaceflight/mars

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