
地震や水害などの大規模な自然災害への対策は、日本に暮らす私たちにとって大きな課題です。日建グループは、被害がより複雑化する都市部における防災に焦点をあて、地図データや人流シミュレーションを活用した「まちづくりと共に考える新時代の防災」の取り組みを進めています。渋谷駅周辺エリアの避難誘導システムの構築に取り組む、岡 万樹子 主任研究員に聞きました。
日建設計総合研究所(NSRI)の視点、 建物からまちづくり規模の防災へ
藏重: これまで手がけてきた防災分野の取り組みについて教えてください。
岡: 日建グループは建築・都市など多様な分野にわたる専門家集団として、建造物の水災害対策をはじめ、液状化などの地盤面の検討や地下などインフラ整備、被災直後に遠隔でも建物の地震時被災度を判定できる「NSmos」など様々な技術提供を行っています。事前のみならず、発災直後・復興に至るまで各フェーズに応じたソリューションを提供していることも、日建グループの大きな特徴です。東日本大震災の発災後には、シビルエンジニアリング分野では陸前高田の駅前広場や住宅地の整備、道路計画などを担当しました。現在は、能登半島地震の被災地である七尾市の復興支援にも継続して携わっています。
加えて、日建設計の有志によって開発された、災害時の避難経路を地図上に可視化する「逃げ地図(避難地形時間地図)」を利用したアウトリーチ活動にも力を入れています。認定特定非営利活動法人日本都市計画家協会と連携し、全国でワークショップを開催しており、教育現場でも活用されています。
岡: 日建グループは建築・都市など多様な分野にわたる専門家集団として、建造物の水災害対策をはじめ、液状化などの地盤面の検討や地下などインフラ整備、被災直後に遠隔でも建物の地震時被災度を判定できる「NSmos」など様々な技術提供を行っています。事前のみならず、発災直後・復興に至るまで各フェーズに応じたソリューションを提供していることも、日建グループの大きな特徴です。東日本大震災の発災後には、シビルエンジニアリング分野では陸前高田の駅前広場や住宅地の整備、道路計画などを担当しました。現在は、能登半島地震の被災地である七尾市の復興支援にも継続して携わっています。
加えて、日建設計の有志によって開発された、災害時の避難経路を地図上に可視化する「逃げ地図(避難地形時間地図)」を利用したアウトリーチ活動にも力を入れています。認定特定非営利活動法人日本都市計画家協会と連携し、全国でワークショップを開催しており、教育現場でも活用されています。

NSRIは、都市の大規模地震への対策を目的とした「都市再生安全確保計画」に参画しています。これは、東日本大震災の教訓を踏まえ、ターミナル駅周辺の開発事業における帰宅困難者対策や避難誘導に向けた取り組みです。災害発生時には、オフィス・商業施設が集積する駅周辺で多数の帰宅困難者が発生することが予想されるため、公共交通機関や民間企業を含めた体制構築が求められます。NSRIではこのほかにも東京都の「防災都市づくり推進計画」の改定支援や、大阪など地下街における3D都市モデルと人流シミュレーションを活用した防災対策支援を実施しています。
藏重: NSRIが持つまちづくりのノウハウと、データ分析やシミュレーションなどの技術が防災に活かされているのですね。
藏重: NSRIが持つまちづくりのノウハウと、データ分析やシミュレーションなどの技術が防災に活かされているのですね。

岡: その通りです。特に民間事業では収益性の面から「防災」というテーマ単体では予算が確保されにくいという現状があります。そこで、クライアントの主要事業であり、NSRIの得意分野でもある「まちづくり」と防災を掛け合わせることで、取り組みを前に進めています。
データで導く、実効性ある渋谷の避難誘導
岡 : 日建設計は渋谷の開発事業を多数手がけていることから、2016年以降「渋谷駅周辺地域都市再生安全確保計画」に参画してきました。私自身は2021年頃からこのプロジェクトに関わり始めましたが、その中で新たな研究テーマが見えてきました。
この計画は、大規模開発事業者が中心になって進められていますが、渋谷には路面店や商店街などの小規模事業者が多く集まるエリアも存在します。特に、渋谷区北西部は商業施設が密集しており、一時避難場所の不足が懸念されていました。そのため、この地域で発生する避難人流を、駅ではなく広域的な一時退避場所である代々木公園方面へどのように誘導するかが大きな課題でした。

藏重: 具体的にどのような検証を行い、改善に取り組んだのでしょうか。
岡: まず人流シミュレーションを実施し、具体的な課題を抽出しました。その結果、商業機能が集積するエリアで発生する人流の滞留は、建物の出入口の変更などのオペレーションによって概ね解消できることが明らかになりました。この示唆をもとに、現地でのアウトリーチ活動として、代々木公園での防災イベント「もしもフェス」※1にて避難経路のマイルストーンの示唆が得られるVR避難訓練の体験機会の提供を行っています。また、渋谷北西エリアの事業者に対して避難時の誘導協力を促す認定制度「マモリシュラン」※2の普及にも、さまざまな団体と連携して取り組んでいます。
※2:マモリシュラン
岡: まず人流シミュレーションを実施し、具体的な課題を抽出しました。その結果、商業機能が集積するエリアで発生する人流の滞留は、建物の出入口の変更などのオペレーションによって概ね解消できることが明らかになりました。この示唆をもとに、現地でのアウトリーチ活動として、代々木公園での防災イベント「もしもフェス」※1にて避難経路のマイルストーンの示唆が得られるVR避難訓練の体験機会の提供を行っています。また、渋谷北西エリアの事業者に対して避難時の誘導協力を促す認定制度「マモリシュラン」※2の普及にも、さまざまな団体と連携して取り組んでいます。
※1:もしもフェス
2019年まで開催されていた渋谷区総合防災訓練(SHIBUYA BOSAI FES)の流れを汲み、渋谷区民・来街者参加型で「防災・減災」を普及啓発するイベントとして2022年より開催する防災イベント。
※2:マモリシュラン
地域の防災意識向上を目的としたWEB検定。繁華街の路面店などに共助の拠点となってもらうことを目指す。

都市型避難誘導システムの構築を目指した協働
岡: 社外との連携先としては、イベントを含む一連の取り組みにおいて、一般社団法人渋谷未来デザインや一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント、さらには渋谷区と協働しています。これらの団体とは、「都市再生安全確保計画」の 検討段階から運用段階に至るまで継続して連携しています。加えて日建グループ内では、日建設計の防災計画チームや建築構造設計分野、土木分野、NSRI の交通計画チームが、人流シミュレーションの検討において協力しています。

岡: 実際の避難誘導を考えると、渋谷にあるオフィス・商業ビルなどの大規模事業者は、まず帰宅困難者の受け入れをしっかり考えています。一方で、警察や行政が建物の外、街中での避難誘導すべてに対応するのは現実的に困難です。そのため、発災時に路上の避難者が取り残されることのないよう、連携パートナーと協力しながら、渋谷区の安全性向上に貢献していきたいと思っています。
藏重: 最後に、NSRIにおける防災への取り組みの、今後の展望を聞かせてください。
岡: 自主研究を通じて、都市空間における防災は「点」での対応にとどまらず、「面」として広域的に捉えることの重要性を実感しました。例えば、渋谷区の防災ポータルサイトは非常に充実していますが、東京都や近隣区との連携は不十分で、情報の一覧性や統合性に課題があります。特に、広域避難場所の選定においては、渋谷区単体で避難誘導を考えることには限界があり、周辺自治体との連携を前提とした計画が求められています。
また、これは日建グループ全体での展望にもつながりますが、都市開発の延長で防災を考えるといったプランニングは日建設計およびNSRIの得意とするところです。一方で、将来の人口減少を前提とする都市において、災害発生後の早期復興を可能にする「事前復興まちづくり」の視点がますます重要になります。今後は、このような視点を取り入れながら、都市の持続性とレジリエンスを高める取り組みに注力していきたいと考えています。




