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“街が好き”なら幸福?|アンケート調査でわかった“場所への愛着”と“ウェルビーイング”の関係

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第20弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

研究のねらい

近年、公共政策に幸福(ウェルビーイング)の視点を取り入れる動きが広がり、Better Life Index(OECD)や、満足度・生活の質に関する調査(内閣府)などの幸福度(ウェルビーイング)指標が注目を集めています。一方で、これらの指標は、個人の年収や健康状態、生活環境等の複合的な要素により規定されるものであり、都市内の空間形成や施設立地、地域イベントなどの「まちづくり」といった特定の施策を評価する指標としては限界がありました。そこで本研究では、場所への愛着(Place Attachment)——「この街が好き」「ここにいるとほっとする」といった、人と場所の関係性から生まれる親しみや誇りの気持ち——に注目し、これを幸福度の物差しとしてまちづくりの現場で活用できるか、を検証することにしました。具体的には、

場所への愛着と幸福度の関係は、実際にはどうなっているのか?
場所への愛着を形づくる要因は、エリアごとに違うのか?

という2つの疑問を明らかにし、場所への愛着の計測結果から、幸福度を高めるまちづくりへの具体的な知見を得ることを目指しました。

研究方法

アンケート設計

東京都在住の524名を対象に、場所への愛着と幸福度の関係を探るアンケート調査を実施しました(調査期間:2024年12月27〜29日)。日本橋、渋谷、丸の内の3つのエリアを調査対象とし、地域とのかかわり方と幸福度、場所愛着については、3エリアそれぞれについての回答を得ました。
表1 アンケートの概要
表1 アンケートの概要

分析方法

得られたアンケートの結果は、次の流れで分析しました。

①相関分析:場所愛着と幸福度の関係を確認
②重回帰分析:愛着形成要因を抽出
③クラスタ分析:愛着、幸福度、利用パターンに基づく来街者を類型化

結果

場所愛着と幸福度は“ほどよく”連動

3つのエリアで測定した場所への愛着(PAS)と、街から得られる幸福感(修正版 PANASのポジティブ項目)の相関係数は r = 0.38〜0.59 でした。これは統計的に「中程度の正の相関」に当たり、場所愛着が高い人ほど「街と関わると幸せを感じる」と回答しやすいことが確かめられました。

もっとも、「街が好きなら必ず幸せ」とまでは言い切れませんが、場所愛着を育むことが幸福感を底上げする要素である可能性は高いと考えられます。言い換えれば、まちづくりを通じて来街者の街への愛着を高めることは、幸福感を高めるうえで有望な手段だ、と言えそうです。

愛着を育てる3つの共通要因+街ごとの彩り要因

場所愛着の形成に影響を及ぼす要因はなんでしょうか? 既往研究から抽出した潜在的な愛着形成要因を説明変数とし、日本橋・渋谷・丸の内のエリアごとに重回帰分析を実施した結果、「思い出が多い」「人とのつながりを感じられる」「地域についての知識が豊富」がいずれのエリアでも共通して、有意に愛着を押し上げる要因として抽出されました。
表2 愛着形成の地域共通要因
表2 愛着形成の地域共通要因
さらに、街ごとに特有の「彩り要因」が次のように抽出されました。
表3 愛着形成の地域彩り要因
表3 愛着形成の地域彩り要因
これらの「地域らしさ」を活かしたまちづくり施策は、地域の個性を反映させつつ愛着を高めることができると考えられます。またエリアに欠けているかもしれない要素——例えば日本橋における「自然環境の魅力」など——を新たに生み出すことで、来街者の愛着形成のさらなる強化につながる可能性があると考えられます。

愛着と幸福度で見る4つの来街者タイプ

幸福感と場所愛着を軸としたクラスタ分析の結果、人々の街との付き合い方を4つのタイプに分けることができました。
表4 クラスタ分析の結果概略
表4 クラスタ分析の結果概略
愛着の度合いは地域を訪れる頻度に影響を受けることが既往研究により明らかになっているため、密着関与型の人々の場所愛着の高さは納得できます。それに加え、上記の結果からは、仕事だけでなく余暇にも地域を訪れる人や、多目的に地域を利用する人でも愛着が高くなる傾向が読みとれます。そのため、「地域の余暇利用・多目的利用を促すミクストユースのまちづくりが、来街者の愛着を高める可能性がある」と言えるでしょう。

地域愛着の計測結果をまちづくりにどう活かす?

以上の分析をもとに、地域愛着を高めるまちづくり施策を考えてみました。

共通要因に対応した施策

「思い出」「つながり」「知識」の3つの愛着形成要因から考えられるまちづくりには、例えば:

①思い出とつながりを重ねる仕掛け
親子ワークショップ、友人と参加できるフードフェス、住民参加型のアート企画など

②余暇動線のデザイン

仕事帰りに立ち寄れるポケットパーク(小規模な公園)やカフェ、週末のマーケットなど「もう一歩滞在」を後押しする空間とプログラム

③街のストーリー共有

街歩きツアー、歴史パネル、AR (現実の空間に情報を重ね合わせる)アプリによるガイドなど、知るほど好きになる仕組み

などが考えられます。


エリアカラーを活かす微調整

エリアごとに独自の愛着形成要因から考えられる、街の特色を活かしたまちづくりには、例えば:

①日本橋:商業イベントと老舗文化を掛け合わせ、“特別な買い物体験”を創出
②渋谷:代々木公園や渋谷川沿いの緑地を活用し、都市の中の“緑の居場所”を増加
③丸の内:皇居外苑との連携を強化し、働く人々の余暇利用を促進

などが考えられます。不足している要素を補う(例:日本橋にもっと緑を)戦略も有効かもしれません。

おわりに

場所愛着というレンズを通すと、幸せを押し上げる道筋がより細やかに見えてきました。

次の休日、あなたはどの街でどんな思い出をつくりますか? その小さな物語が、あなた自身のウェルビーイングと街の未来をそっと育てていきます。

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