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OFF EARTH|地球の外に、都市をつくる No.2 Second Horizon 宇宙都市のモビリティとインフラ

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。自主研究スピンオフ「OFF EARTH|地球の外に、都市をつくる 」の連載第2弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

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「もし人類が月や火星に都市を築いたら、そこでの移動や生活インフラはどうなるのだろう?」——第1弾では、宇宙都市開発の現在地を概観しました。では実際に宇宙都市で暮らすには、どのような交通手段でまちを移動し、どのようなインフラで日々の電力や水を賄うのでしょうか。第2弾となる本記事では、人と物が行き交う動線と機能に焦点を当て、宇宙都市のモビリティとインフラを探っていきます。

ロケット技術の現在と未来:地球から火星往還へ

画像1 火星からのロケット打上げイメージ(出典:AIで作成)
画像1 火星からのロケット打上げイメージ(出典:AIで作成)
現在、地球から宇宙都市への移動にはロケットが必要です。その主力は、NASAのSLS(スペース・ローンチ・システム、2022年11月に初飛行、オリオンを月周回軌道へ投入)と、スペースXのファルコン9 + ドラゴン宇宙船です[1]。スペースXは、完全再使用型スターシップの開発も進めており、100人規模の乗員や大量の物資を火星へ輸送する構想を掲げています[2]。

将来の宇宙都市建設には、高効率な推進技術が不可欠です。NASAは原子力ロケットエンジンを2027年までに宇宙で実証する計画を進めており、この技術は従来の化学ロケットよりも3倍以上の効率を持つため、航行時間の短縮による宇宙飛行士の宇宙線被ばくの軽減、燃料や物資の利用効率化が期待されています[3][4]。

また、精密な着陸技術も重要です。日本のSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)は、2024年1月20日に月面において目標地点からわずか55メートルの誤差で着地するという世界初の高精度着陸を実現し、従来の数キロメートル単位の誤差を大幅に改善しました。これは未来の月面基地建設や火星探査に不可欠な技術基盤となります[5][6]。

さらに、探査機等が火星から帰還するためには、火星表面から打ち上げる小型ロケット(Mars Ascent Vehicle, MAV)が必要です。NASAとESAが進める火星サンプルリターン計画では、2028年に初の惑星離陸を目指す2段式小型ロケットを火星から打ち上げる予定です[7]。
表1 惑星間の移動技術例(出典:日建設計総合研究所にて作成)
表1 惑星間の移動技術例(出典:日建設計総合研究所にて作成)
[1] NASA. (2022, Nov 16). NASA’s Artemis I Mega Moon Rocket Launches Orion to Moon. NASA News Release. https://www.nasa.gov/news-release/liftoff-nasas-artemis-i-mega-rocket-launches-orion-to-moon/
[2]SpaceX. (2024). Starship. SpaceX Official Website. https://www.spacex.com/vehicles/starship
[3]NASA. (2023, Jan 24). NASA, DARPA Will Test Nuclear Engine for Future Mars Missions. NASA News Release. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-darpa-will-test-nuclear-engine-for-future-mars-missions
[4]NASA. (2023, Jan 24). NASA, DARPA Will Test Nuclear Engine for Future Mars Missions. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-darpa-will-test-nuclear-engine-for-future-mars-missions/
[5]Mitsubishi Electric. (2024, Jan 26). Smart Lander for Investigating Moon "SLIM" Achieves World's First High-Precision Landing on the Moon. https://www.mitsubishielectric.com/en/pr/2024/0126/
[6]JAXA. (2024, Jan 25). 変形型月面ロボットによる小型月着陸実証機(SLIM)の撮影およびデータ送信に成功. https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-4_j.html
[7]NASA. (2022, July 27). NASA, ESA Continue Plans for Mars Sample Return. https://science.nasa.gov/mission/mars-sample-return/

惑星上の都市内外モビリティ – 月・火星での移動手段

画像2 火星での有人ローバーのイメージ(出典:AIで作成)
画像2 火星での有人ローバーのイメージ(出典:AIで作成)

月や火星につくる都市においては、大気が薄い、あるいは無いため、地球のような徒歩や自転車による移動は非現実的です。月では1971年に人が運転する車両としてLRV (Lunar Roving Vehicle, 月面車)が使用されました。火星では、1997年に初めて自立走行型の探査車「マーズ・パスファインダー」が投入され、これまで6台の車両が火星表面を走っています。
今後導入されるモビリティとしては、これまでの移動手段も含めて以下のような交通手段が想定されています。

1. 有人ローバー
JAXAとトヨタが開発中の「Lunar Cruiser」は、燃料電池によって走行し、2名が最大30日間滞在可能な移動式居住空間として設計されています。火星でも同様に、与圧された電動ローバーが都市内外の移動や物資輸送に活用される見通しです[8]。

2. 加圧トンネル
NASAは、宇宙飛行士が外気に触れずに安全に移動できる伸縮式の加圧トンネルの導入を検討しています。これにより、惑星探査時の安全性を高めるとともに、地球と他の惑星との間で微生物等が行き来する「交差汚染」を防ぐことが期待されています[9]。

3. 磁気浮上式鉄道や未来モビリティ
火星都市向け研究では、磁気浮上式鉄道(Magnetic Levitation Railway)が持続可能で拡張性のあるインフラとして評価されています。貨物輸送や都市間移動に適するとされ、長期的にはドローンやスペースプレーンとの併用も想定されています[10]。

表2 惑星表面の移動手段(出典:日建設計総合研究所にて作成)
表2 惑星表面の移動手段(出典:日建設計総合研究所にて作成)
[8] Toyota & JAXA. (2019). JAXAとトヨタ、国際宇宙探査ミッションへの挑戦に合意. https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/26986678.html
[9] Rucker, M. A., Howe, N. A. M., & Jefferies, S. (2016). Mars Surface Tunnel Element Concept. NASA Johnson Space Center. https://spacearchitect.org/pubs/IEEE-Aero-2016-Rucker-Jefferies-Howe-Howard-Mary-Watson-Lewis.pdf
[10] de Curtò, J., & de Zarzà, I. (2024). Analysis of Transportation Systems for Colonies on Mars. Sustainability, 16(7), 3041. https://upcommons.upc.edu/server/api/core/bitstreams/83266714-4860-4ad3-90fc-37d92fe6b16a/content

地球と他天体を結ぶ惑星間交通 – スペースポートから軌道エレベーターまで

画像3 地球から伸びる軌道エレベーターのイメージ(出典:AIで作成)
画像3 地球から伸びる軌道エレベーターのイメージ(出典:AIで作成)
地球と他天体を結ぶ惑星間交通を実現するためには、ロケットの打ち上げに依存する現在の方式を超え、多様なインフラと技術を組み合わせた新たな交通体系が不可欠です。その出発点となるのがスペースポートであり、SpaceXがテキサス州の「Starbase」に整備したような打ち上げ・着陸・製造・整備を一体化する拠点は、今後の宇宙交通網の玄関口として重要な役割を担います[11]。 (Starbaseは2025年に自治体として承認[12])

さらに将来的構想として有望なのが「軌道エレベーター」で、地球赤道上の地表と静止軌道上のカウンターウェイトを、高強度ケーブルで結び、クライマーによって人員や物資を低コスト・大量に輸送する手段です[13][14]。この方式は化石燃料を使わず持続的で効率的な大量輸送が可能となる一方、カーボンナノチューブ等極限の強度を持つ素材の実用化が最大の課題となります。日本では大林組が2012年に「宇宙エレベーター建設構想」を発表し、2050年の実現を目標に、地上基部・宇宙港ステーション・カウンターウェイトを含む全長96,000 kmのシステムを提案しました[15]。 こうした軌道エレベーターの実現に向けて、様々な企業が各国の大学や研究機関と連携し、材料研究や安全性評価の検討を続けています。
画像4 マスドライバーのイメージ(出典:AIで作成)
画像4 マスドライバーのイメージ(出典:AIで作成)
また、「ロフストロム・ループ(Lofstrom loop / Launch loop)」に加えて、「マスドライバー(mass driver)」も提案されています。マスドライバーは電磁加速によりペイロードや素材を高速に射出する方式です。たとえば月面から資源を軌道に投入する用途として有力であり[16]、将来的には宇宙資源利用や惑星間交通の補助手段となる可能性があります。

これらの技術は、ただ個別に機能するのみならず、スペースポートから軌道エレベーター、さらにマスドライバーやLaunch Loop等を組み合わせた利用により、現実的な惑星間交通ネットワークを構築できると考えられます。そして、このようなインフラは地球から月・火星といった他天体を安定的に結ぶ航路を構築し、資源の有効活用等による持続可能な宇宙利用の基盤として人類社会に大きな恩恵をもたらす可能性があります。
[11] NASA. (2025, Feb 10). NASA Awards Launch Service Task Order for Pandora Mission. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-awards-launch-service-task-order-for-pandora-mission/
[12] Forbes. (2025, May 5). Starbase Launches, Making Elon Musk The Founder Of A New City In Texas. Starbase Launches, Making Elon Musk The Founder Of A New City In Texas
[13] Edwards, B. C. (2000). The Space Elevator: NIAC Phase I Final Report. NASA Technical Reports Server. https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20000105202/downloads/20000105202.pdf
[14] International Space Elevator Consortium (ISEC). (2024). ISEC FAQ. https://www.isec.org/faq
[15] The Space Elevator Construction Concept(Obayashi Corporation) https://www.obayashi.co.jp/en/special/space_elevator.html?utm_source=chatgpt.com
[16] Peterkin, R. (2024, June 24). Lunar Electromagnetic Launch for Resource Exploitation to Enhance National Security and Economic Growth (Final report to AFOSR). Space.com. https://www.space.com/electromagnetic-launch-moon-mass-drive

分散型インフラのデザイン – 電力・熱・水・酸素を循環させる仕組み

画像5 火星表面での太陽光発電パネルのイメージ(出典:AIで作成)
画像5 火星表面での太陽光発電パネルのイメージ(出典:AIで作成)
ここまで主に交通について見てきましたが、宇宙都市では、電気、熱、空気、水、通信等のインフラをいかに自給自足し、循環させるかも重要になります。地球上であれば、既に構築されている広域インフラに繋ぐことで、電気も熱も水も通信もすぐに使うことができます。空気に関しては、その存在を意識して生活されている方は少ないのではないでしょうか。しかし、火星には広域インフラがありません。都市を築くためには、最初に都市の中で完結したインフラを構築しなければなりません。さらに、火星は地球と異なり、紫外線や隕石等の危険が多く、過酷な環境下で人々の安全や生活を支えることが求められるため、すべてのインフラは冗長性を確保し、分散配置することが必要不可欠です。そして、大規模な資源の採取も困難であるため、持続可能な利用には、廃棄物の再資源化することを念頭に設計することが重要です。

宇宙都市で生活するためのインフラとして、地球上ではあまり意識しない空気等を含め、①エネルギー(電気)、②熱、③空気、④水、⑤情報の5項目に分類しました。それぞれを宇宙都市で供給・循環させる仕組みについて考えてみます。
表3 宇宙都市で生活する上で重要な5つのインフラ(出典:日建設計総合研究所にて作成)
表3 宇宙都市で生活する上で重要な5つのインフラ(出典:日建設計総合研究所にて作成)

エネルギー源の多様化

宇宙都市におけるエネルギー(電気)の供給は、太陽光や原子力等複数の発電設備を併用することが現実的です。月や火星は太陽の光が届くため、太陽光発電は有力な手段の一つですが、夜や砂嵐等気象の影響により途切れるリスクがあります。このリスクを回避するため、場所や天候に左右されず安定した電気を連続で供給できる原子力発電が候補にあります。原子力発電について、NASAは40kW級の発電が可能な小型の核分裂発電システムを月面に設置する実証計画を進めており、2022年にはアイダホ国立研究所が3社と契約を締結し、設計開発等の具体的な取り組みが始まっています[17]。

一方、太陽光発電も大規模に設置することで、火星都市における主力の発電源となりえます。都市活動によるエネルギー消費量を考えると、メガソーラーを超えるギガソーラーやテラソーラーが必要になるかもしれません。初期段階では、地球から発電効率が高い太陽光パネルを輸送し、その後は、現地で生産可能な施設を建設し、大規模な太陽光発電所を建設することになるのではないでしょうか。

極限環境での空調技術

地球上の大部分は、人間が生活できる温度で推移しています。しかし、月や火星等地球の外では温度条件が大きく異なります。例えば、月面においては、昼に120℃以上、夜に-170℃以下になる等、極端な温度差が生じます。さらに、2週間連続で夜となり太陽光が照らないということもあります。そのため、熱の管理は大きな課題です。120℃以上にもなる月では、エアコンの設置は難しく、熱の放出は大型の放熱板を使う必要があります[18]。

火星では、月ほど極端ではありませんが、日中の熱は放熱器で放出する必要があります。一方、厳冬期には、寒さから身を守るため、暖房が必要になります。暖房ニーズに対応するアイデアの一つに、廃熱利用があります。例えば原子力発電や太陽光発電で生じる熱をヒートポンプで回収し、暖房に利用する方法です。また、昼間に蓄熱材へ熱を貯めて夜間に放出する蓄熱システムも考えられます。熱の制御は生命にもつながるため、宇宙都市のインフラで重要なテーマといえます。

空気(酸素)の生成と循環

宇宙都市には、もちろん空気が欠かせません。地球と異なり月や火星には呼吸できる大気が存在しないため、空気(特に酸素)は現地で生み出し、循環させる必要があります。火星の大気は95%以上がCO₂で構成されており、このCO₂を酸素に変える技術として、NASAはMOXIE (Mars Oxygen In-situ Resource Utilization Experiment)の実証を進めています。[19]

人間が生活するためには酸素の生成だけではなく、窒素等により適切な成分の大気と気圧の維持が必要です。さらに、居住者からのCO₂が一か所にとどまらないように、ファン等を使って上手に換気することも重要です。特に、居住区においては万一の漏えいに備えて各区画にエアロックを設け、区画ごとに封鎖できるようにするなど、安全面の計画が必要です。

将来的には、植物の光合成を組み合わせ、より持続的かつ自律的な空気の循環システムが実現するかもしれません。宇宙都市ではこのように多層的な生命維持システムによって、人間が長期間生活できる環境を人工的に作り出すことになります。

水の確保と完全リサイクル

宇宙都市では、水は極めて貴重です。国際宇宙ステーション(ISS)では、すでに乗員の尿や汗から水を再生するシステムが稼働しています。近年、水の再生率は98%に達したといわれており、水を循環する仕組みは出来上がりつつあります[20]。 一方で不足する分は、調達する必要があります。月や火星には極地域を中心に水(氷)が存在する可能性が高く、地下から採取することで水を確保することが考えられます。電気等のエネルギーが限られる宇宙都市では、高度な水処理を行うため、地球上の水道インフラ以上に省エネかつ信頼性の高い水循環技術が求められ、各居住区で水再生装置から生活排水の浄化および再利用しながら、不足分を地下からくみ上げることが想像されます。

通信・ネットワーク

広大な宇宙都市の内外に光通信網を敷設することは現実的ではなく、地球上よりも無線ネットワークに頼ることになります。火星の一部都市内に限定すれば、有線によりネットワークを構築することも可能ですが、地表から宇宙空間に関しては、無線が基本です。また、月や火星から地球と通信するためには常に数分~数十分の遅延があり、自律型のネットワークが必要になります。NASAは月面向けに「ルナネット (LunaNet)」という分散型通信・測位ネットワーク構想を発表しています。ルナネットは、災害級の太陽フレア予測を自動配信するなど、地球上のネットワーク管理者からの指示に頼らず、現地で情報を判断、やり取りできる仕組みが特徴です[21]。 火星でもいずれは地球同様のネットワークが整備され、都市と周辺ロボット群、さらには地球とのデータ通信まで含めた統合通信網が張り巡らされるでしょう。
[17] NASA. (2021, Jun 21). NASA Announces Artemis Concept Awards for Nuclear Power on Moon. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-announces-artemis-concept-awards-for-nuclear-power-on-moon/#:~:text=NASA%20and%20the%20U,under%20the%20%20168%20umbrella
[18] R. Gregory Schunk. (2021). Thermal Control System Architecture and Technology Challenges for a Lunar Surface Habitat. https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20210026557/downloads/IEEE%202022%20Paper%20SH%20TCS%20Architecture%20and%20Technical%20Challenges%20Update.pdf#:~:text=3,NOVEC%207200%20as%20the%20working
[19] NASA. (2023, Sep 6). NASA’s Oxygen-Generating Experiment MOXIE Completes Mars Mission. https://www.nasa.gov/missions/mars-2020-perseverance/perseverance-rover/nasas-oxygen-generating-experiment-moxie-completes-mars-mission/#:~:text=Technology%20,are%20concluding
[20] NASA. (2023, Jun 20). NASA Achieves Water Recovery Milestone on International Space Station. NASA Achieves Water Recovery Milestone on International Space Station - NASA
[21] NASA. (2021, Oct 7). LunaNet: Empowering Artemis with Communications and Navigation Interoperability. LunaNet: Empowering Artemis with Communications and Navigation Interoperability - NASA

空間は文化を生むか?宇宙都市の未来像

画像6 宇宙都市の生活イメージ(出典:AIで作成)
画像6 宇宙都市の生活イメージ(出典:AIで作成)
ここまで見てきたモビリティとインフラを統合し、惑星表面における都市形態を構想すると、一つの巨大構造に都市機能を集約する方式と、複数の小型モジュールをネットワークで結ぶ方式に大別できると考えられます。巨大構造型の場合は、集まることで管理が容易になる反面、一箇所の事故(隕石衝突や与圧漏洩)が命取りとなる宇宙空間においてはリスクが集中する危険があります。ネットワーク型の場合は、事故発生時にもエリアを区画することで安全性を確保できるといった特徴がある一方で、移動やインフラ整備が複雑になってしまうというトレードオフがあります。極限環境でこのバランスをどう取るかが、都市設計のひとつの鍵になるのではないでしょうか。

人類が火星に都市を築く未来は、まず「生存」を最優先した機能的な空間の実現を目指して進んでいます。しかし、技術や資源が成熟していくにつれ、その空間は単に「生き延びるための場所」から「生活の場」、そして「人が心地よく暮らせる都市」へと進化していくはずです。その過程で、月や火星といった新たな環境ならではの文化や社会制度が芽生える可能性もあるのではないでしょうか。

宇宙では、人間は屋内空間で暮らさざるを得ません。したがって、空間構造がそこに暮らす人々の社会制度や文化の形成に大きな影響を及ぼすことが考えられます。かつて地球でも、巨大宗教・王権建築(ピラミッド/大聖堂)や権力拠点(城郭・城下町)といった「空間」と、労働動員・儀礼・司法・政治・身分秩序といった「社会制度」とは、互いに深く結びついていました[22][23]。

宇宙という極限環境では、建築=社会制度の器という関係がより一層強まるかもしれません。では、その空間構造と制度設計は、どのように影響し合うのでしょうか。答えは未知数ですが、次回(第3弾)では、こうした問いをさらに掘り下げて探っていきたいと思います。

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