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「もし人類が月や火星に都市を築いたら、そこでの移動や生活インフラはどうなるのだろう?」——第1弾では、宇宙都市開発の現在地を概観しました。では実際に宇宙都市で暮らすには、どのような交通手段でまちを移動し、どのようなインフラで日々の電力や水を賄うのでしょうか。第2弾となる本記事では、人と物が行き交う動線と機能に焦点を当て、宇宙都市のモビリティとインフラを探っていきます。
ロケット技術の現在と未来:地球から火星往還へ

将来の宇宙都市建設には、高効率な推進技術が不可欠です。NASAは原子力ロケットエンジンを2027年までに宇宙で実証する計画を進めており、この技術は従来の化学ロケットよりも3倍以上の効率を持つため、航行時間の短縮による宇宙飛行士の宇宙線被ばくの軽減、燃料や物資の利用効率化が期待されています[3][4]。
また、精密な着陸技術も重要です。日本のSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)は、2024年1月20日に月面において目標地点からわずか55メートルの誤差で着地するという世界初の高精度着陸を実現し、従来の数キロメートル単位の誤差を大幅に改善しました。これは未来の月面基地建設や火星探査に不可欠な技術基盤となります[5][6]。
さらに、探査機等が火星から帰還するためには、火星表面から打ち上げる小型ロケット(Mars Ascent Vehicle, MAV)が必要です。NASAとESAが進める火星サンプルリターン計画では、2028年に初の惑星離陸を目指す2段式小型ロケットを火星から打ち上げる予定です[7]。

[2]SpaceX. (2024). Starship. SpaceX Official Website. https://www.spacex.com/vehicles/starship
[3]NASA. (2023, Jan 24). NASA, DARPA Will Test Nuclear Engine for Future Mars Missions. NASA News Release. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-darpa-will-test-nuclear-engine-for-future-mars-missions
[4]NASA. (2023, Jan 24). NASA, DARPA Will Test Nuclear Engine for Future Mars Missions. https://www.nasa.gov/news-release/nasa-darpa-will-test-nuclear-engine-for-future-mars-missions/
[5]Mitsubishi Electric. (2024, Jan 26). Smart Lander for Investigating Moon "SLIM" Achieves World's First High-Precision Landing on the Moon. https://www.mitsubishielectric.com/en/pr/2024/0126/
[6]JAXA. (2024, Jan 25). 変形型月面ロボットによる小型月着陸実証機(SLIM)の撮影およびデータ送信に成功. https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-4_j.html
[7]NASA. (2022, July 27). NASA, ESA Continue Plans for Mars Sample Return. https://science.nasa.gov/mission/mars-sample-return/
惑星上の都市内外モビリティ – 月・火星での移動手段

月や火星につくる都市においては、大気が薄い、あるいは無いため、地球のような徒歩や自転車による移動は非現実的です。月では1971年に人が運転する車両としてLRV (Lunar Roving Vehicle, 月面車)が使用されました。火星では、1997年に初めて自立走行型の探査車「マーズ・パスファインダー」が投入され、これまで6台の車両が火星表面を走っています。
今後導入されるモビリティとしては、これまでの移動手段も含めて以下のような交通手段が想定されています。
1. 有人ローバー
JAXAとトヨタが開発中の「Lunar Cruiser」は、燃料電池によって走行し、2名が最大30日間滞在可能な移動式居住空間として設計されています。火星でも同様に、与圧された電動ローバーが都市内外の移動や物資輸送に活用される見通しです[8]。
2. 加圧トンネル
NASAは、宇宙飛行士が外気に触れずに安全に移動できる伸縮式の加圧トンネルの導入を検討しています。これにより、惑星探査時の安全性を高めるとともに、地球と他の惑星との間で微生物等が行き来する「交差汚染」を防ぐことが期待されています[9]。
3. 磁気浮上式鉄道や未来モビリティ
火星都市向け研究では、磁気浮上式鉄道(Magnetic Levitation Railway)が持続可能で拡張性のあるインフラとして評価されています。貨物輸送や都市間移動に適するとされ、長期的にはドローンやスペースプレーンとの併用も想定されています[10]。

[9] Rucker, M. A., Howe, N. A. M., & Jefferies, S. (2016). Mars Surface Tunnel Element Concept. NASA Johnson Space Center. https://spacearchitect.org/pubs/IEEE-Aero-2016-Rucker-Jefferies-Howe-Howard-Mary-Watson-Lewis.pdf
[10] de Curtò, J., & de Zarzà, I. (2024). Analysis of Transportation Systems for Colonies on Mars. Sustainability, 16(7), 3041. https://upcommons.upc.edu/server/api/core/bitstreams/83266714-4860-4ad3-90fc-37d92fe6b16a/content
地球と他天体を結ぶ惑星間交通 – スペースポートから軌道エレベーターまで

さらに将来的構想として有望なのが「軌道エレベーター」で、地球赤道上の地表と静止軌道上のカウンターウェイトを、高強度ケーブルで結び、クライマーによって人員や物資を低コスト・大量に輸送する手段です[13][14]。この方式は化石燃料を使わず持続的で効率的な大量輸送が可能となる一方、カーボンナノチューブ等極限の強度を持つ素材の実用化が最大の課題となります。日本では大林組が2012年に「宇宙エレベーター建設構想」を発表し、2050年の実現を目標に、地上基部・宇宙港ステーション・カウンターウェイトを含む全長96,000 kmのシステムを提案しました[15]。 こうした軌道エレベーターの実現に向けて、様々な企業が各国の大学や研究機関と連携し、材料研究や安全性評価の検討を続けています。

これらの技術は、ただ個別に機能するのみならず、スペースポートから軌道エレベーター、さらにマスドライバーやLaunch Loop等を組み合わせた利用により、現実的な惑星間交通ネットワークを構築できると考えられます。そして、このようなインフラは地球から月・火星といった他天体を安定的に結ぶ航路を構築し、資源の有効活用等による持続可能な宇宙利用の基盤として人類社会に大きな恩恵をもたらす可能性があります。
[12] Forbes. (2025, May 5). Starbase Launches, Making Elon Musk The Founder Of A New City In Texas. Starbase Launches, Making Elon Musk The Founder Of A New City In Texas
[13] Edwards, B. C. (2000). The Space Elevator: NIAC Phase I Final Report. NASA Technical Reports Server. https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20000105202/downloads/20000105202.pdf
[14] International Space Elevator Consortium (ISEC). (2024). ISEC FAQ. https://www.isec.org/faq
[15] The Space Elevator Construction Concept(Obayashi Corporation) https://www.obayashi.co.jp/en/special/space_elevator.html?utm_source=chatgpt.com
[16] Peterkin, R. (2024, June 24). Lunar Electromagnetic Launch for Resource Exploitation to Enhance National Security and Economic Growth (Final report to AFOSR). Space.com. https://www.space.com/electromagnetic-launch-moon-mass-drive
分散型インフラのデザイン – 電力・熱・水・酸素を循環させる仕組み

宇宙都市で生活するためのインフラとして、地球上ではあまり意識しない空気等を含め、①エネルギー(電気)、②熱、③空気、④水、⑤情報の5項目に分類しました。それぞれを宇宙都市で供給・循環させる仕組みについて考えてみます。

エネルギー源の多様化
一方、太陽光発電も大規模に設置することで、火星都市における主力の発電源となりえます。都市活動によるエネルギー消費量を考えると、メガソーラーを超えるギガソーラーやテラソーラーが必要になるかもしれません。初期段階では、地球から発電効率が高い太陽光パネルを輸送し、その後は、現地で生産可能な施設を建設し、大規模な太陽光発電所を建設することになるのではないでしょうか。
極限環境での空調技術
火星では、月ほど極端ではありませんが、日中の熱は放熱器で放出する必要があります。一方、厳冬期には、寒さから身を守るため、暖房が必要になります。暖房ニーズに対応するアイデアの一つに、廃熱利用があります。例えば原子力発電や太陽光発電で生じる熱をヒートポンプで回収し、暖房に利用する方法です。また、昼間に蓄熱材へ熱を貯めて夜間に放出する蓄熱システムも考えられます。熱の制御は生命にもつながるため、宇宙都市のインフラで重要なテーマといえます。
空気(酸素)の生成と循環
人間が生活するためには酸素の生成だけではなく、窒素等により適切な成分の大気と気圧の維持が必要です。さらに、居住者からのCO₂が一か所にとどまらないように、ファン等を使って上手に換気することも重要です。特に、居住区においては万一の漏えいに備えて各区画にエアロックを設け、区画ごとに封鎖できるようにするなど、安全面の計画が必要です。
将来的には、植物の光合成を組み合わせ、より持続的かつ自律的な空気の循環システムが実現するかもしれません。宇宙都市ではこのように多層的な生命維持システムによって、人間が長期間生活できる環境を人工的に作り出すことになります。
水の確保と完全リサイクル
通信・ネットワーク
[18] R. Gregory Schunk. (2021). Thermal Control System Architecture and Technology Challenges for a Lunar Surface Habitat. https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20210026557/downloads/IEEE%202022%20Paper%20SH%20TCS%20Architecture%20and%20Technical%20Challenges%20Update.pdf#:~:text=3,NOVEC%207200%20as%20the%20working
[19] NASA. (2023, Sep 6). NASA’s Oxygen-Generating Experiment MOXIE Completes Mars Mission. https://www.nasa.gov/missions/mars-2020-perseverance/perseverance-rover/nasas-oxygen-generating-experiment-moxie-completes-mars-mission/#:~:text=Technology%20,are%20concluding
[20] NASA. (2023, Jun 20). NASA Achieves Water Recovery Milestone on International Space Station. NASA Achieves Water Recovery Milestone on International Space Station - NASA
[21] NASA. (2021, Oct 7). LunaNet: Empowering Artemis with Communications and Navigation Interoperability. LunaNet: Empowering Artemis with Communications and Navigation Interoperability - NASA
空間は文化を生むか?宇宙都市の未来像

人類が火星に都市を築く未来は、まず「生存」を最優先した機能的な空間の実現を目指して進んでいます。しかし、技術や資源が成熟していくにつれ、その空間は単に「生き延びるための場所」から「生活の場」、そして「人が心地よく暮らせる都市」へと進化していくはずです。その過程で、月や火星といった新たな環境ならではの文化や社会制度が芽生える可能性もあるのではないでしょうか。
宇宙では、人間は屋内空間で暮らさざるを得ません。したがって、空間構造がそこに暮らす人々の社会制度や文化の形成に大きな影響を及ぼすことが考えられます。かつて地球でも、巨大宗教・王権建築(ピラミッド/大聖堂)や権力拠点(城郭・城下町)といった「空間」と、労働動員・儀礼・司法・政治・身分秩序といった「社会制度」とは、互いに深く結びついていました[22][23]。
宇宙という極限環境では、建築=社会制度の器という関係がより一層強まるかもしれません。では、その空間構造と制度設計は、どのように影響し合うのでしょうか。答えは未知数ですが、次回(第3弾)では、こうした問いをさらに掘り下げて探っていきたいと思います。





