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1.メディアの会社で考えたこと

2. メディアは魔法の絨毯のようだ

3.メディアはプロジェクトを動かすドライバーにもなる

4.ささやかでもメディアと現実をつなぐ場の発見

5. メディアに流通/不動産をくっつけたことによるダイナミズム

6.リノベーションの一般化・社会化

7.公共住宅をいかに自由にするか

8.TOOL BOX 住み手に委ねるための空間とシステム

9.エリアコンバージョン 点から面へ/都市計画の方法論

10.イベント(非日常)が次第に日常に還元されていく

11.「新しい郊外」の発見

12.3.11で考えはじめたこと



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(図87)
実際によく見ると、味のあるビルがあったりするんです。空き物件をアーティストはうまく空間と対話しながら遊んでくれています。空き空間の魅力を顕在化させるきっかけです。そういう仕組みにもなっていました。同時に、今まで余り見たことがなかった神田の裏通りあたりの江戸の空気がうっすら残る裏路地など、そういうのを初めて若い世代が見る機会にもなりました。要するに、イベントという機会をつくることによって、眠っていた可能性を顕在化する。そういう仕組みになっていたと思います。ボランティアでノリノリでやっていたのを思い出します。地下があったので、ずっとやっていたら怒られますが、1日だけクラブにしたり、お店にしてみたり、やんちゃなことをたくさんやり続けるわけです。
(図89)
これは普通の空き物件ですが、壁だけペンキで塗って、これでいいじゃんという空間をつくっていきます。これはうちの事務所ですが、その日だけはちゃんとお店にして、イベントをするわけです。神田の既存の住民たちは、僕らを見て、「何だ。おまえたち」という感じだったんですが、途中から、「新しい祭りが1個増えたんだな」という感じになりました。もともと神田明神の祭りの町なので、そういう感じで地域と緩やかにつながりながらこういう活動を続けていたわけです。


イベント(非日常)が次第に日常に還元されていく

(図90)
オーナーとアーティストを出会わせる。それを10年近く続けると、非日常、イベントが日常に還元されていく、シフトしていくということが起きます。物件を見に来たアーティストやいろいろなお客さんが「この辺、結構いいじゃない。このビル、いいよね」と言って、1人また1人とこのエリアに引っ越してくるようになりました。
(図91)
例えばこういうボロ物件があって、ほとんどあいていた。僕らから見るとカッコいいですね。今ここの1階は、こんなしゃれた宝石屋さんになっています。1号店が六本木ヒルズ、2号店が馬喰町。高級ラインはこっち。六本木ヒルズは通りがかりの人なので、適当なのを置いておけばいいよぐらいで、高いのはわざわざここまで買いに来てくれる。価値の逆転が起こっています。物すごくしゃれたリノベーションです。
(図92)
クラブをやっていたところです。そこはTARO NASU GALLERYという日本を代表するギャラリーに変わっています。
(図93)
2階なので、ART+EATといって、アートと食べることが融合したカフェができている。
(図94)
フランスのアナトミカというすごく有名なブランドが入っています。渋谷や代官山ではない、エッジがきいているのはこっちだと言って、こっちに来てくれた。カッティングエッジを求める人たちがこっちに集まってくるようになりました。今、「ブルータス」とかそういう系の雑誌が、アート特集のときには、六本木、青山、代官山、馬喰町と取り上げる。東京のイーストサイドで何か起こっているということで取り上げられるようになっています。
(図95)
1つまた1つと、そういう店が増えてくる。こういうふうに進出した会社は、おもしろいことにつぶれないんです。何故かというと、小さく始めていて、投資が少ない。おまけに家賃が少ないので、新しいことを始めようとする若者たちがみんなここで始めてくれるということが起こっています。
(図96)
こういう雑貨屋さんもあります。本にまとめています。
(図97)
 去年、一体何カ所ぐらい来たんだろうというのをまとめてみました。東京R不動産の編集担当がマップにしてみました。この段階で80カ所。新しく入ってきたお店だけで今は多分100カ所ぐらいになっていると思います。
ここは非日常、イベントから始まり、それが日常に定着していって町になる。今は、新しく入ってきた人たちはアクティブな人たちなので、その人同士がネットワークしていくわけです。それがパーッと面になっていく感覚があります。
僕はこの風景を見ながら、一番最初に話したメディアが都市計画の新しいインフラになるのではないかという臨海副都心の博覧会の中止を見た感覚の逆を感じています。これは20世紀的な言い方では決して都市計画やまちづくりとは言えないかもしれません。特に都市計画とは言えないかもしれません。ただし、絵に描いたもちのパースを描いて、あり得もしない絵を描いて、それに向かって計画を進めていくという帰納法的な計画がこの時代、果たして可能か。発表してはメディアにさらされる今の時代において、その計画が有効なのかと思ったときに、こういう小さな部分を丁寧につくっていって、それ同士がネットワークしていって、いつしか面になり、それ自体が都市をつくっていく。偶然性に委ねられているところが多いので、およそ計画とは呼べないかもしれないけれども、それ自体が新しい時代の都市計画の方法論ではないかとうっすら思い始めています。演繹的なまちづくり、都市計画です。
その軸になっているのは、東京R不動産であり、こういうマップであり、本であり、メディアであり、そして、それをリアルに流通させる東京R不動産のような不動産である。建築家、都市をつくる側が形をつくるだけではなかなかリアルなコミットメントを都市にすることができなくて、その辺も引き受けながら、そして編集しながら進めていくことは必要なのかもなと思って、こういう現象を見ています。


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