1.メディアの会社で考えたこと

2. メディアは魔法の絨毯のようだ

3.メディアはプロジェクトを動かすドライバーにもなる

4.ささやかでもメディアと現実をつなぐ場の発見

5. メディアに流通/不動産をくっつけたことによるダイナミズム

6.リノベーションの一般化・社会化

7.公共住宅をいかに自由にするか

8.TOOL BOX 住み手に委ねるための空間とシステム

9.エリアコンバージョン 点から面へ/都市計画の方法論

10.イベント(非日常)が次第に日常に還元されていく

11.「新しい郊外」の発見

12.3.11で考えはじめたこと



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メディアに流通/不動産をくっつけたことによるダイナミズム

(図25)
メディアに流通不動産をくっつけるというダイナミズム。雑誌をやっていたときにはメディアをつくっていて、動きはつくれたんですが、何かカラカラ回っている感じなんです。そこに不動産流通というリアルにお金が動く現象、メディアと流通をガシャッとくっつけた瞬間に、ガーッと動く実感があった。まだうまく言語化されてないんですが、よりリアルに社会をカチッとつかんだようなイメージがありました。
(図26)

メディア×流通、メディア×不動産があるんだなと。東京R不動産というのは、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、東京中のおもしろい物件を写真と文章で書いて紹介する不動産仲介のウエブサイトです。特徴はアイコンです。普通、不動産というのは、駅から何分、フローリング、追いだきあり、全部性能情報、スペック情報で語られたのが日本の不動産でした。この東京R不動産は、天井が高い、改装オーケー、倉庫っぽい、レトロな味わい。全部感性情報、定性情報で空間を見ていこう。建築をやっている人間にとっ
ては当然のことなんです。でも、不動産の人間には違ったんです。珍しい視点だと。建築と不動産は隣同士のようでいて全然違う世界だったんだなということを改めて感じます。レトロな味わいというのは築年数が古いということで、不動産業界からすると悪いことでしかないのに、僕らはうれしそうにそれを書いているので、すごく新鮮がられた。
(図27)
こういう倉庫っぽい物件をうれしそうに載せてみたりしました。これは坂倉準三さんのビラ・モデルナというワンルームの古典です。ある日ペラペラと見ていたら、築50年近くのどうしようもない、ぼろワンルームとして載っているんです。見ると、「あ、ビラ・モデルナじゃないか」と言って、早速東京R不動産に、「巨匠の伝説的な物件が」と載せたら、好きな人がバババッと、あっという間に埋まっていった。情報や空間もそうかもしれませんが、必要な人にとっては必要で、そうではない人にとってはそうではない。当たり前ですが、そこに決定的なミスマッチがあったんだなということに気づかされた一幕でした。
(図28)
東京R不動産とはというところの説明に書いてありますが、不動産と建築デザインとメディア、この3つの三角形によって成り立っていることに気がついていきます。不動産だけでは成り立たない。もちろん空間を読み取る建築的な知見があって、それをメディアライズしていく。この3つのうちのどれかが抜けても、多分東京R不動産は成り立っていなかっただろうなという気がします。僕はその3者をビビッドに感じながら仕事ができているのはラッキーだなと思います。
(図29)
プロジェクトを動かすドライバーでもあるので、本を書いたりしています。『東京R不動産』が2004年に出たときは青山ブックセンターやそういうところでは、リリー・フランキーの『東京タワー』を抜いて3週間ぐらい1位だった時期があります。東京R不動産は今では月間300万ページビューぐらいあって、会員が3万人ぐらいいてというメディアに成長していってくれています。それ自体がリノベーションというカルチャーをアクセラレートするのに恐らく一役買ってくれているのではないかなという気がします。今は東京R不動産だけではなくて、福岡R不動産、大阪R不動産、神戸R不動産、金沢R不動産、山形R不動産、房総R不動産、いろんな地方に○○R不動産が横展開、飛び火しているという状況が起こっています。
(図30)
こういうメディアをつくりながら、設計事務所としてのOpen A、僕のもう1つの軸足、本来の軸足のほうも、ちょっとずつそれと連動を始めます。メディアが仕事を連れてきてくれる感じでした。
(図31)
自分の事務所のすぐ近くに、築40年の廃墟があった。もともと下が倉庫、上が事務所、それから住み込みの人がいたので、住居としても登録されていたという建物です。この会社が倒産して5年ぐらいあいていて、競売になっていたのをあるオーナーさんが買った。上の建物の価値はほとんどないと思われていたんですが、そのリノベーションとやらで何とかならないかという相談を受けたのが初期の状況です。

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