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1.メディアの会社で考えたこと

2. メディアは魔法の絨毯のようだ

3.メディアはプロジェクトを動かすドライバーにもなる

4.ささやかでもメディアと現実をつなぐ場の発見

5. メディアに流通/不動産をくっつけたことによるダイナミズム

6.リノベーションの一般化・社会化

7.公共住宅をいかに自由にするか

8.TOOL BOX 住み手に委ねるための空間とシステム

9.エリアコンバージョン 点から面へ/都市計画の方法論

10.イベント(非日常)が次第に日常に還元されていく

11.「新しい郊外」の発見

12.3.11で考えはじめたこと



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(図16)
 ゲリラ的にこんな動きができる。その近くに本屋がある。ブックストア。10時ぐらいに人がワサワサいるんです。中に入るとカフェになっていて、何が起こっているのか、マスターに聞いてみると、古本屋を古本ごと買い取った。その古本をインテリアにしてカフェにした。要するに、その店のスト-リー(物語)を継承して機能が変わっている。だから、本に囲まれたこの空間の居心地のよさがあり、それでこんなに人気があるんだということに気がつきます。物語を継承するというリノベーションの魅力にハッと気がつくんです。
(図17)
これは近くのロサンゼルスのデパートです。廃墟になっていました。それが、子どもたちのためのワークショップギャラリーに変わっていたんです。もともとショーウインドーだったところで、洋服が飾ってあったんでしょう。今は子どもたちが遊ぶ姿を垣間見ることができます。古い建物だったから、子どもたちはやりたい放題です。お母さんたちは「昔、私が通っていたデパートが子どもを連れていってもいい施設になったんだ」ということで、帰巣本能があります。最初からすごい人気で地域に定着した。これも建物の歴史を継承しているからこそあり得た再生です。
(図18)
これはニューヨークです。DUMBエリアというのは、Down Under the Manhattan Bridge Overpassの頭文字です。ニューヨークでは今物すごく先端の町です。向こう側がマンハッタン、こっち側がブルックリン。マンハッタンブリッジのブルックリン側の足元で、80年代までは危険で行ってはいけないところでした。それが今見事に再生しています。僕が行った2000年代の頭には若いアーティストの建築家が建物をジャックして、こういう空き物件を使ったイベントをやっていました。96年に始まるんですが、それをニューヨークタイムズがポッと取り上げたことによって一気にブレークするんです。
これは、行政の力も、大きい企業の力も別に借りているわけではないんです。若い人間たちのたくらみによって、都市がリアルに変わっていく。ここは地価も上がっていれば、住民も増えている。そうなってくると、企業や行政もサポートするといういい循環が生まれています。きっかけはこうやってつくれる。逆にすごく楽しそうだということを感じて帰ってきます。
(図19)
そのとき見たカフェです。並べてある家具は全部どこかで拾ってきた廃材みたいなもので、それがカッコよかった。
(図20)
シカゴです。僕はここでコンバージョンという単語を初めて聞きます。流通改革で、ミシガン湖のほとりの空きビルがたくさん出てしまっている。倉庫やオフィスがマンション、レジデンスにリノベーションされていました。ピンピンと黒くついているのは後づけのベランダです。そのときのインテリアはこれなんです。ガランとして何もない。冷蔵庫やキッチンやトイレがパラレルにゴロンと置いてある、好きに住めと。住み手の自由というか想像力がたっぷり残った空間で、何で俺たちは3LDKとかいう不思議な記号にこれだけ惑わされながら、小さい空間を区切って住んでいたんだろうということをこの風景を見ながら思ったんです。ここに自由を見た感じがしました。
(図21)
僕は、この本を編集しながら、実際研究して、魔法の絨毯なので、いろいろな人に話を聞いて、いろんな空気を浴びて帰ってきました。

ささやかでもメディアと現実をつなぐ場の発見

(図22)
日本に帰ってくると、当然何かやりたくなります。僕はメディアと現実をつなぐ小さな場所が欲しかったということを発見しました。
(図23)
本当に小さいんですがこれです。神田の裏にある駐車場、家賃10万円、坪5000円。ここを借りて何でもいいからリノベーションしてやろう。小さくても何か事例が要る。白く塗っただけですが、全然違うよね。窓をバンとあける。白いペンキは魔法の素材で、物をすっかり変えてくれます。
当時、中目黒に事務所があったんですが、新しく変化するエリアはどこだと思って行ったのが神田、日本橋の裏あたりです。今でも僕の事務所がありますが、そのあたりに目をつけてここに引っ越します。この小さな物件を借りてペンキを塗りたくるだけに物すごく苦労するんです。何故かというと、原状復帰義務というのがあります。不動産屋さんに行って、「貸してください。改造したいんです」「はあ?」と言われた。「いるんだよね、君みたいに面倒くさいやつ」みたいな扱いをどこに行っても受ける憂き目に遭うんですが、中にはちょっと話がわかる人もいて、「こんなのどう?」と出してくれるんだけど、どれもピンとこない。「あそこのビルとか、あの角のビルとか空いているように見えるんですけど」「えっ、あんなぼろでいいの?」というちぐはぐな会話を不動産屋さんとする。既存の町の不動産屋さんと僕らの間には埋めがたい感性の溝があるんだなと気がつくんです。僕は、逆にそれがおもしろくて、この事務所に引っ越して、自分の事務所の周りの空き物件ブログを書き始めます。
メディアを発信すると何か情報が集まってくるということを知っていた。ちょうどブログとかウエブをつくりやすくなった時代なので、そういうことを始めるわけですが、それが東京R不動産というウエブサイトにつながってきます。
(図24)
空き物件から見る東京。今和次郎さんの考現学みたいなものが僕は好きで、ボイドから見る東京みたいな日記を書いています。そうすると、これは借りれないのかというメールがバンバン来るようになった。「俺、不動産、わからないし」という感じだったんです。だけど、友達何人かと、「ちょっと待て。これ、ニーズがあるから、ちゃんと借りられるようにしようよ。僕らが欲しいと思っていたメディアはきっとみんなが欲しいんだ」ということで、東京R不動産というメディアを始めます。思い出すと、最初は5人でその悪だくみを始めて、10万円ずつ出して50万円でプログラムをつくったのをよく覚えています。今東京R不動産の売り上げは億を超えているので、案外小さなアクションが新しい現象を生むんだなと思いますね。

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