
東京都独自の「人と地球環境にやさしい住宅である『東京ゼロエミ住宅』」。日建設計総合研究所(NSRI)は制度検討の初期段階から伴走支援を行ってきました。個人住宅のゼロエミッションを促進する行政の取り組みにどのような視点や技術が求められているのか、住宅分野でどんな知見を得たのか、坂井 友香 主任研究員と堤 遼 研究員に聞きました。
住宅分野に押し寄せるGXの波
與那嶺: 「東京ゼロエミ住宅」の背景とNSRIの業務を教えてください。
堤: 東京都は2019年に「2050年ゼロエミッション東京」を宣言し、CO2排出量実質ゼロを目指すアクションを開始しました。「東京ゼロエミ住宅」はその重要施策のひとつで、断熱性能や省エネ設備に都独自の基準を設けて新築住宅の環境性能を向上させる認証・助成制度です。NSRIは制度開始前に初版の手引きを作成し、その後も2024年の制度改正における基準見直しの検討、新しい手引きや実測事例集、広報資料の作成など一連の伴走支援を続けてきました。
堤: 東京都は2019年に「2050年ゼロエミッション東京」を宣言し、CO2排出量実質ゼロを目指すアクションを開始しました。「東京ゼロエミ住宅」はその重要施策のひとつで、断熱性能や省エネ設備に都独自の基準を設けて新築住宅の環境性能を向上させる認証・助成制度です。NSRIは制度開始前に初版の手引きを作成し、その後も2024年の制度改正における基準見直しの検討、新しい手引きや実測事例集、広報資料の作成など一連の伴走支援を続けてきました。

與那嶺: NSRIの事業対象は都市や公共空間、大規模事業所などが多いですが、住宅分野への参画をどのように位置づけていますか?
坂井: 国のカーボンニュートラル化目標を実現する上で、住宅分野の脱炭素化(以降、ゼロエミ化)も重要と考えます。日本の温室効果ガス排出量を部門別に見ると、業務その他部門(商業・オフィスビルなど)と家庭部門にさほど大きな差はありません。ただ家庭部門に一律の環境規制を課すことは、国内新築着工棟数の約9割を占めることからも高いハードルと考えられていたため、1割の棟数でエネルギー消費の5割を占める非住宅部門(国内新築着工棟数では、残りの1割の棟数であるが、エネルギー消費は約5割を占めている)を重点的に規制強化されてきました。
しかし、カーボンニュートラル化を実現するには、個人住宅にも規制をかける必要が生じており、2025年4月から、すべての新築住宅に省エネ基準へ適合することが義務化されました。このような背景から、住宅の供給事業者等からZEHやエネルギーマネジメントに関するご相談をいただくことが増えています。
堤: 「東京ゼロエミ住宅」は近年の住宅政策において非常に注目度の高い制度です。東京都によれば、実際に都内で新築される4棟に1棟が「東京ゼロエミ住宅」を取得しているとのことであり、高い環境性能の住宅が増えています。 制度の立ち上げから関わることによって、住宅分野の最新技術や現場の知見を蓄積でき、住宅系デベロッパーなどの新規クライアントとのつながりも増えました。NSRIの新たなブランディングにも寄与していると思います。
政策と現場をつないで制度の実効性を高める
與那嶺: 2024年の制度改正ではどのように新基準を検討したのですか?
堤: 直近の目標である2030年「カーボンハーフ」(温室効果ガス排出量を2000年比50%削減)達成に向けての基準見直しでしたが、実効性のない数値を掲げても現場がついてこられません。大手ハウスメーカーだけでなく地場の工務店でも実現可能かどうか、丁寧に確認しながら進める必要がありました。そこでまず複数の住宅モデルを設定し、それぞれ約300ケースのシミュレーションを行って基準値を検討しました。
坂井: シミュレーションで出た数値を実現するためにどんな工法が必要か、大枠の方針をある程度立てたうえで、ハウスメーカーや工務店に伺って実現可能性をヒアリングしました。特に戸建住宅の設計施工に関しては、私たちより彼らのほうがはるかに経験があります。多くのことを教えていただきながら技術面の調整を図っていきました。
堤: 最終的に、今回の基準見直しでは都の検討会において、ZEH水準を大幅に上回る水準が新設されました。現場での実現性を担保しつつ、きめ細かなケース設定と膨大なシミュレーションによって明確なエビデンスを都に示してきました。
堤: 直近の目標である2030年「カーボンハーフ」(温室効果ガス排出量を2000年比50%削減)達成に向けての基準見直しでしたが、実効性のない数値を掲げても現場がついてこられません。大手ハウスメーカーだけでなく地場の工務店でも実現可能かどうか、丁寧に確認しながら進める必要がありました。そこでまず複数の住宅モデルを設定し、それぞれ約300ケースのシミュレーションを行って基準値を検討しました。
坂井: シミュレーションで出た数値を実現するためにどんな工法が必要か、大枠の方針をある程度立てたうえで、ハウスメーカーや工務店に伺って実現可能性をヒアリングしました。特に戸建住宅の設計施工に関しては、私たちより彼らのほうがはるかに経験があります。多くのことを教えていただきながら技術面の調整を図っていきました。
堤: 最終的に、今回の基準見直しでは都の検討会において、ZEH水準を大幅に上回る水準が新設されました。現場での実現性を担保しつつ、きめ細かなケース設定と膨大なシミュレーションによって明確なエビデンスを都に示してきました。
快適性と環境性能を実測し住み手と話す貴重な経験
與那嶺: 新しく作成された手引きも充実した内容ですね。
坂井: 制度開始から5年、「東京ゼロエミ住宅」をさらに高い水準に引き上げていきたいという東京都環境局の方々の強い熱意もあいまって、質の高い手引きを作成することとなりました。主な読者は、これから家づくりを考えている方々や地場の工務店です。このため、専門家でなくても、ゼロエミ化に関する取り組みのメリット、改正のポイント、基準に適合するための仕様例などをわかりやすく伝えるように工夫しました。なかでも力を入れたのは実際の住宅の効果検証です。
堤: 施主や工務店の協力を得て5件の住宅を訪ね、効果検証のための実測を行いました。夏季・冬季にそれぞれ短期の計測を実施し、エアコン停止後の室温変化、室内の様々な場所の室温と快適性、窓や外壁の表面温度などを分析し、断熱と省エネの効果検証をしています。こうしたデータ計測と分析に非住宅分野で培ったノウハウを活かせるのがNSRIの強みです。
與那嶺: NSRIでは普段、個人の施主の方に直接お話を伺う機会はなかなかありませんよね?
坂井: 貴重な経験になりました。施主のみなさまは、住宅や環境についての意識が非常に高く、「ぜひわが家の環境性能を測ってください!」と協力的でした。訪問させて頂いたどのお宅においても、断熱性能や設備スペックの高さだけでなく、暮らし方の工夫等も加わって、快適で居心地のいい住環境を実現していました。

堤: 非住宅の建築物であればエネルギー消費量はある程度予測可能なのですが、個人住宅の場合、生活スタイルや家族構成などが環境性能にダイレクトに影響します。ちょっとした電気の使い方やエアコンの温度設定の工夫しだいで省エネ効果が変化します。また省エネだけでなく、太陽光発電に蓄電池、電気自動車も活用して上手にエネルギーを活用されているご家庭もありました。
坂井: 2階建て100平米以上の規模でエアコンが冷暖房各1台だけという住宅にも伺いました。にわかには信じられなかったのですが、実際に訪問して納得!適切なエアコンの設置位置、日射をコントロールする工夫、最高レベルの断熱窓などを活用し、常に快適な環境を保っていました。
與那嶺 興味深いですね。日建グループでも実験住宅の取り組みができたら面白そうですね。今後、住宅分野についてどんな展望を持っていますか?
坂井: 国の住宅政策もさらに高いレベルが求められるようになっていきますので、「東京ゼロエミ住宅」で得た知見を活かして政策支援に関わっていきたいと思います。また東京以外の他の地域でも住宅の省エネ政策により力を入れて取り組む自治体が増えていくことを期待しています。住宅環境が過ごしやすければ、それだけで幸せな気持ちになれますから。
堤: 本当にそうですね。日本で断熱基準が初めて定められたのが1980年。私の親世代が家を建てる時代はまだ断熱も最低限の住宅が一般的で、最近久しぶりに実家に帰ったら何だか寒いなと(笑)。「家の環境性能を上げることでこんなに暮らしやすくなるのか!」という体験をもっと多くの方に提供していきたいです。そのために、民間トップランナーとなる住宅事例づくりと、政策制度によるボトムアップの両面から貢献することに意義を感じています。
坂井: NSRIは現在、水・食・エネルギーなど地域資源を近隣に融通しながら自立する「自立融通まちづくり」の提案をしています。働く、暮らす、移動するといったミクストユースのまちづくりに、住宅分野と非住宅分野それぞれの知見をかけあわせていきたいと思います。
坂井: 2階建て100平米以上の規模でエアコンが冷暖房各1台だけという住宅にも伺いました。にわかには信じられなかったのですが、実際に訪問して納得!適切なエアコンの設置位置、日射をコントロールする工夫、最高レベルの断熱窓などを活用し、常に快適な環境を保っていました。
與那嶺 興味深いですね。日建グループでも実験住宅の取り組みができたら面白そうですね。今後、住宅分野についてどんな展望を持っていますか?
坂井: 国の住宅政策もさらに高いレベルが求められるようになっていきますので、「東京ゼロエミ住宅」で得た知見を活かして政策支援に関わっていきたいと思います。また東京以外の他の地域でも住宅の省エネ政策により力を入れて取り組む自治体が増えていくことを期待しています。住宅環境が過ごしやすければ、それだけで幸せな気持ちになれますから。
堤: 本当にそうですね。日本で断熱基準が初めて定められたのが1980年。私の親世代が家を建てる時代はまだ断熱も最低限の住宅が一般的で、最近久しぶりに実家に帰ったら何だか寒いなと(笑)。「家の環境性能を上げることでこんなに暮らしやすくなるのか!」という体験をもっと多くの方に提供していきたいです。そのために、民間トップランナーとなる住宅事例づくりと、政策制度によるボトムアップの両面から貢献することに意義を感じています。
坂井: NSRIは現在、水・食・エネルギーなど地域資源を近隣に融通しながら自立する「自立融通まちづくり」の提案をしています。働く、暮らす、移動するといったミクストユースのまちづくりに、住宅分野と非住宅分野それぞれの知見をかけあわせていきたいと思います。





